那須川天心(24=帝拳)は「スピードがすごい」と言われるが、それは単に動き回るスピードではない。際だっているのは瞬発的なスピードだ。止まっていると思った瞬間、キューンと別の位置に移動できる。まるで瞬間移動、ワープしたようだ。これは天性としか言いようがない。

デビュー戦は日本の上位ランカー相手にやりたい放題で、スピード以外でも群を抜く才能を随所に見せた。パンチを当てさせない卓越したディフェンス力は、「アンタッチャブル」と言われた元世界スーパーフライ級王者の川島郭志のようだった。クリンチされても組み負けていない。格闘技慣れしていると感じた。

数年前、私はキック時代の那須川のボクシング技術に驚き「ボクシングに転向すれば75年にプロ3戦目で世界王者になったセンサク・ムアンスリン(タイ)の記録を塗り替える」と語ったことがある。その印象と評価は今日のデビュー戦を見ても変わらない。

最短記録を狙うかどうかはジムの方針もある。もっと土台をつくってからという考え方もあるだろう。いずれにしても世界王者になる逸材だ。格闘技界で修羅場を経験しているのでハートも強く、大舞台でも動じない。何より華がある。ボクシング界の宝だと思う。(元WBC、WBA世界ミニマム級王者)