横綱稀勢の里(32=田子ノ浦)が、優勝した昨年3月の春場所以来、9場所ぶりに15日間を戦い抜いた。大関豪栄道に突き落とされて、横綱として2場所目の皆勤場所は10勝5敗。八角理事長(元横綱北勝海)、阿武松審判部長(元関脇益荒雄)ら親方衆からは、来場所以降の優勝争いを期待する声が相次いだ。場所前からの進退問題は、実質的に解消された形となった。

1年半ぶりに15日間を取り終えた直後は、充実感よりも悔しさが上回った。稀勢の里は立ち合いから左を差せず、豪栄道に押し込まれてから、あっさりと突き落とされる完敗。支度部屋では、今場所4度目の無言を貫いた。2敗目を喫した小結玉鷲戦以降、黒星を喫した際のパターン。それほど勝負へのこだわりの強さをにじませていた。場所を移して都内のホテルで行われた、千秋楽パーティーでは高らかに復活を誓った。

稀勢の里 優勝争いはかなわなかったですが、また来場所、もっともっと強くなって優勝争いに絡み、また、いい報告をできるように一生懸命頑張ります。

部屋の後援者らを前に、自ら「優勝争い」を目標として掲げた。進退を懸けて臨んだ場所で10勝し、横綱審議委員会(横審)をはじめ、周囲から引退を勧告される可能性を限りなくゼロに近づけた。実質的に進退は自身の決断一つに委ねられる中、来場所の雪辱、何より現役続行を宣言した。

親方衆からも優勝争いを期待する声が相次いだ。八角理事長は「下半身をしっかり鍛え、立ち合い当たってからの圧力を戻したいところ」、阿武松審判部長は「横綱戦に勝っての10番は来場所につながると思う。左を封じられた相撲は、来場所までの課題」と、進退問題を超越し、来場所以降も現役を続ける前提で助言を送った。貴乃花親方(元横綱)は「出たことに意味がある」と、7場所連続休場から12勝して復活した経験を踏まえて語っていた。

兄弟子西岩親方(元関脇若の里)は、本人の思いを代弁した。「優勝して本当の復活といえる。いつか、そういう日が来ると信じている」。稀勢の里伝説第2章「復活編」は、始まったばかりだ。【高田文太】