元横綱日馬富士の傷害事件を巡り、被害者で平幕の貴ノ岩(28=千賀ノ浦)が慰謝料など約2400万円の損害賠償を求めた訴訟で、貴ノ岩は30日、訴訟を取り下げた。貴ノ岩と貴ノ岩の代理人弁護士は、取り下げた理由について、貴ノ岩が母国モンゴルから受けた激しいバッシングなどが理由と説明。一方で元日馬富士側は、貴ノ岩側の一部主張に反論した。

昨年10月25日に鳥取巡業での酒席で起きた暴行事件の行方が節目を迎えた。今月4日、貴ノ岩は元日馬富士を相手に損害賠償を求め、東京地裁に提訴したが、この日に取り下げたことを文書で発表。「裁判を起こしてから、母国であるモンゴルでは私に対する想像を超える強烈なバッシングが始まり、私の家族もモンゴルで非常につらい目に遭うことになりました。家族から何度も耐えられないとの連絡があり、もう裁判をやめてくれとの要請がありました」などと説明した。

貴ノ岩の代理人弁護士は「モンゴルでの平穏な暮らしなどを守るために取り下げを行ったものです。このような形で断念せざるを得ず、極めて残念です」とコメントを発表した。

コメントが発表される前、貴ノ岩は朝稽古に参加。秋巡業は左足首痛により全休したが、軽快な動きを見せて、笑みを浮かべる場面もあった。朝稽古終了後に提訴取り下げが発表された。正午に福岡市内で行われた力士会に参加後、提訴取り下げについて問われると「代理人が発表した通りです」と多くは語らなかった。

これを受け、元日馬富士の代理人弁護士は見解を示すと同時に、貴ノ岩へのバッシングについても触れた。文書で「モンゴルの国民性からして被害者である貴ノ岩関や、ましてやご家族が非難の対象となることは考えられません。SNS等で一部にせよそのような事実があるとすれば、極めて遺憾であり、もとより日馬富士の望むところでは決してありません」と指摘した。

貴ノ岩の代理人弁護士によれば、提訴を取り下げたことで、貴ノ岩が治療費435万円などの費用を自己負担する申し出があったという。一方で元日馬富士側は「今後も被害弁償について誠実に対応していく気持ちにいささかの変化もございません」との姿勢を示した。

モンゴルでのバッシングにより訴訟問題は幕を閉じたが、双方はいまだに通じ合えないまま。後味の悪さを引きずりながら、真の決着までにはまだ時間がかかりそうだ。