“稽古場横綱”が無観客開催の場所で底力を発揮する。西前頭13枚目の碧山(33=春日野)が新入幕の琴ノ若を突き出し、横綱白鵬とともに1敗を守った。関取衆のだれもが認める稽古場での強さ。自身も「稽古場みたい」という今場所、引いてしまう悪癖はなく、攻撃的な相撲で昨年春場所以来の2桁白星を飾った。横綱鶴竜、大関とりの関脇朝乃山らが1差で追う。

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新入幕の挑戦を“秒殺”で粉砕した。立ち合い、いなされて体が泳いだ碧山だが、すぐに立て直して琴ノ若を突き出した。「当たった瞬間、(相手が)いなくなったけど体がよく動いた」と快勝を振り返った。

「(2桁は)うれしいです。大阪はゲンがいいね」。12勝をあげた昨年春場所以来の2桁星に表情は緩む。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で無観客の異例の場所だが、碧山にとってはプラスになる。稽古場での強さは、関取衆の誰もが認める。昨年の東京・町田市で行われた春巡業での申し合い稽古で16戦全勝。横綱審議委員会による稽古総見では勝ちっぱなしで土俵に残り続け、八角理事長(元横綱北勝海)がたまらず「代われ」と指示したこともあるほどだ。

観客がいない寂しい場内を碧山は「(観客席に)いるのは親方衆だけ。稽古場と一緒」と表現し、「稽古場と同じように迷わず、前に出ている」と言った。当たって引いてしまう悪癖が今場所はない。「普通に相撲とっている」という稽古場感覚が星につながる。

先場所、幕尻優勝の徳勝龍は同じ86年生まれで「(相撲)教習所も一緒だった」と意識する存在。その先場所、碧山は4勝2敗から9連敗で大負けし「ショックだった」。一方で徳勝龍の快進撃を「何で勝てるのかと思った」と言い、「勝ちたいだけじゃ難しい」と気づかされたという。

17年名古屋場所で白鵬に星1つ及ばなかった13勝をあげ、関脇も務めた実力者。番付下位に潜み、無観客も味方に「下克上」の主役を狙う。【実藤健一】