35歳のベテランが、大波乱場所をものにする。西前頭12枚目の佐田の海(35)が、13歳下の小結豊昇龍を電光石火の寄りで撃破した。2桁白星は、新入幕だった14年夏場所以来2度目。優勝争いのトップにも並んだ。中卒たたき上げのいぶし銀に訪れた賜杯のチャンス。実現すれば年6場所制が定着した1958年(昭33)以降では、2番目の年長初Vとなる。3敗で照ノ富士、隆の勝と並走する。

    ◇    ◇    ◇

自慢の速攻相撲だった。今場所初の三役戦。佐田の海は狙い通りのもろ差しから、投げを怖がらずに猛進した。小手に振られて際どい土俵際。物言いがついたが、軍配通りと分かると、勝ち名乗りで大きく息を吐いた。「2、3回チャンスあったけど、ことごとく2桁勝てなかったので」。幕内在位40場所。8年ぶりの2桁勝利をかみしめた。

182センチ、143キロ。幕内では大柄とはいえないが、日々のウエートトレーニングと、境川部屋の猛稽古で若さを保つ。ベテランの躍進に八角理事長(元横綱北勝海)も「二本差してから速いよね。体の寄せ方もいい」と絶賛。「(幕内に)8年もいるのか…。真面目にコツコツやっているのがいいんじゃないか。こういう人がいい成績を残すとうれしいね」と言葉に熱がこもった。

父宏司さん(65)は元小結で、追いかけるように同じしこ名を名乗った。親子2代での幕内力士。土俵への愛は強い。「幼稚園の時から力士になりたかった。体が悪くて力士になれなかったらと考えると、何も出てこないくらい相撲しか考えていなかった」。毎場所、父からエールが届く。「(今場所は)相撲が良くなったなと言われます」。

12年夏場所で元旭天鵬(現大島親方)が37歳8カ月での最年長初優勝を飾り、ちょうど10年がたつ。幕内に9人しかいない昭和生まれ。「勝ち負けも大事だけど、それと同じくらい自分の相撲を取りたい」。荒れる土俵に歴史を刻む。【佐藤礼征】