大相撲秋場所(10日初日、東京・両国国技館)が迫る中でもまだまだ残暑が続く。厳しい暑さの中、親方衆の生活をのぞいてみると、涼を感じる癒やしがあった。その中身を「親方衆の癒やし」と題して全5回にわたって紹介する。4回目は錦戸親方(61=元関脇水戸泉)。

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現役時代の姿からは想像できない。豪快な塩まきから「ソルトシェーカー」の異名を誇った錦戸親方の癒やしは、絵を描くことだ。繊細なタッチで彩られた油彩画の数々は、30号~100号まで大きさはさまざま。絵の話になると親方の表情は自然と笑みがこぼれてくる。描くことがどれほど好きなのかが伝わってきた。

少年時代から暇を持て余すと、ノートの切れ端に落書きした。幼い頃に父を亡くしたため母は仕事で家を留守にすることが多く、買ってもらったクレヨンで好きな漫画を模写して寂しさを紛らわせた。手塚治虫、ちばてつや、ちばあきおなど巨匠たちの作品をスケッチしているうちにデッサン力がつき、「小学校3年生の時に市内の大会で表彰された」ほどの腕前になった。

漫画家になりたいと思うことはあったが、現実味はなかった。大柄な体格を買われて中学卒業後に相撲界へ入ったのも自然な流れだった。関取になって時間に余裕ができると、6代目高砂親方(元小結富士錦)のおかみに紹介を受けて油絵を始めた。師事する先生に教わってヘラやくしで描くうちに、その表現の幅の広さに驚いた。「気が付くと食事も取らず、5、6時間も描き続けちゃう」ことから、本場所中は自粛していたほどだ。

長続きする「趣味」と謙遜するが、今でも絵画展に出展したり、後援者に宛てる手紙に気に入った風景を添えたり。「絵は誰かと競い合うものではないんです。自分の中で工夫しながら、より良い作品を作れるところが楽しい」と訴えかけるように言った。【平山連】

【連載】親方衆の癒やし/連載まとめ