一世を風靡(ふうび)した作品、役に恵まれても、ブームが去れば、苦難の道が待っていることが多い。「爆報! THE フライデー」(TBS系)などを見ていると、しばしばそうした例が取り上げられる。「一発屋」というやつだ。

 だが、米国に目を転じると例外は少なくない。今年を振り返ってみると、「優雅な一発屋」ともいうべき2人が来日し、取材する機会があった。

 1人は「スター・ウォーズ」のマーク・ハミル(66)。シリーズ創始者のジョージ・ルーカス監督に見いだされ、77年の第1作から83年の第3作までメーン・キャストのルーク・スカイウォーカーを演じた。

 相手役レイア姫のキャリー・フィッシャー(享年60)が歌手エディ・フィッシャーと女優デビー・レイノルズの間に生まれたハリウッド・セレブだったのに対し、父親が海軍勤務だったハミルは各地を転々としながら育ち、ハリウッドとは縁がなく、公募から大役をものにした。

 78年の初来日時に宣伝を担当していた元フォックス・ジャパンの古沢利夫氏が振り返る。

 「フィッシャーは取材の受け答えにもそつがなかった。日本の文化にも造詣が深くて、相撲部屋を見学したいとか、要望が具体的でした。ハミルの方は高校時代を父親の勤務先の横須賀で過ごしているのですが、日本語ができるわけではない。感じはいいけど、右も左も分からない、いかにもポッと出の青年でしたね」

 実は第1作の撮影終盤に交通事故を起こし、鼻と左ほおを骨折。第2作はハリソン・フォード演じるハン・ソロ中心に脚本が書き直されている。何とか第3作までルーク役を演じきったものの、せっかく手にした大役がするりと手からこぼれ落ちそうな局面もあったのだ。

 浮かれ気分がたたって交通事故に至ったのかは不明だが、端から一発屋の空気が漂っていたのである。

 SWを離れた後は、これといった作品に恵まれなかった。B級SF映画でライトセーバーを振り回すパロディー的な場面にも登場した。

 一昨年の「フォースの覚醒」でシリーズが再開。30年ぶりにルーク役のオファーが来たときは渡りに船の心境だったに違いない、と端からは見える。が、真相は違ったようで、実は本人は受諾に二の足を踏んでいる。

 「ハリソン(・フォード)がオファーを受けたと聞いて、もし僕が出なかったら同じキャストで復活するはずだったシリーズを僕が壊してしまうことになる。それだけは避けたかったんだよ」と心境を明かしている。

 この余裕はいったいなんなのだろう。その背景を古沢氏が明かしてくれた。

 「ハミルはあけすけな性格で、初来日時の取材の合間に具体的なギャラも教えてくれた。出演料そのものは新人の標準的なものだったけど、ボーナスとしてルーカスから世界配収の0・25%を約束してもらったというんですよ。その場で電卓をたたいてみて言葉を失いましたね」

 資料を見ると、第1作の配収は77年の北米だけで邦額にして300億円を軽く越えている。つまりハミルの取り分は約1億円。翌年にかけて世界中で公開されているからその額は数億円ということになる。

 「言葉を失った僕を見ながら、ハミルは『だから今、僕はとても金持ちなんだ』としたり顔をしていました」と古沢氏は振り返る。

 シリーズ最新作「最後のジェダイ」で37年ぶりに来日したハミルは、マリル夫人と娘のシャーロットさんとともに笑顔満面でレッドカーペットを歩いていた。

 来日会見では、60代に入ってからのシリーズ再開に「スター・ウォーズは生涯年金もくれるんだと思った」と語った。ジョークと受け止めた会場では爆笑のひと幕だったが、本人はいたってまじめに本音を明かしただけなのかもしれない。

 もう1人は人気ドラマ「ツイン・ピークス」の25年ぶり再開とともに来日したカイル・マクラクラン(58)だ。こちらもクーパー捜査官のイメージが強すぎて、その後は、この作品を縁に親交のあるデビット・リンチ監督の作品以外はぱっとしない、というのが正直なところだ。

 「ツイン・ピークス」の再開については「『あの世界』に戻れると思ったら、すごく興奮しました」と素直に喜びを語ったが、仕立てのいい、体にフィットしたスーツ、素足に同色のローファーといういでたちに何ともいえない余裕が漂った。

 実はワシントン州コロンビアバレーに広大なワイナリーを経営していて「Pursued By Bear」の名のワインはなかなかのブランドになっている。「この名前は僕の大好きなシェークスピアの『冬物語』のシーンから付けました」と解説する様子にもゆとりを感じた。

 フランシス・フォード・コッポラ監督のワイナリーも有名ですが、と水を向けると「ワイン作りは予想不能なところがクリエーティブ。確かにオレンジを育てるより映画的かもしれませんね」と笑った。

 ワイナリーの成功でどうやらこちらも悠々自適なのだ。

 「セックス・アンド・ザ・シティ」や「デスパレードな妻たち」といった人気ドラマにもさりげなく顔を出し、マイペースに存在感をキープしている。

 もうひと山当てたい、とあくせくする日本の「一発屋」から見ればうらやましい生き方なのかもしれない。【相原斎】