「シカゴ」(02年)や「恋に落ちたシェイクスピア」(98年)などで多数のアカデミー賞を受賞し、オスカー荒らしと呼ばれたハリウッドの大物プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン氏が長年にわたって女優らにセクハラ行為を行ってきたことが明るみになって以来初のアカデミー賞授賞式が4日、ハリウッドで行われました。トランプ大統領の誕生でアメリカが分断する中で行われた昨年の授賞式では、作品賞が誤発表されるという前代未聞のハプニングも起きましたが、90回目を迎えた今年の授賞式は大きな混乱もサプライズもなく、ほとんどの賞が下馬評通りの結果に終わりました。

 「シェイプ・オブ・ウォーター」と「スリー・ビルボード」の一騎打ちといわれた大混戦を制したのは、最多13部門にノミネートされていたギレルモ・デル・トロ監督の「シェイプ・オブ・ウォーター」でした。作品賞、監督賞、美術賞、作曲賞の最多4部門に輝き、「スリー・ビルボード」はフランシス・マクドーマンドの主演女優賞とサム・ロックウェルの助演男優賞の2冠に終わりました。主演男優賞は下馬評通り、「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」のゲイリー・オールドマンが、助演女優賞も最有力候補の「アイ、トーニャ史上最大のスキャンダル」のアリソン・ジャネイが受賞。最大のサプライズは、低予算サスペンス・ホラー「ゲット・アウト」の脚本賞受賞でした。アフリカ系アメリカ人として初めて、作品賞、監督賞、脚本賞に同時ノミネートされる快挙を果たしたジョーダン・ビールの名前が呼ばれると、会場からは大きな拍手が沸き起こりました。

 2年連続司会を務めたジミー・キンメルは、開始早々に昨年の作品賞誤発表をネタに「今日は名前が呼ばれても、すぐに立たないでください」と語り、笑いを誘いました。そして最大の見せ場である作品賞の発表には、昨年誤った受賞作を発表したウォーレン・ベイティとフェイ・ダナウェイのコンビが再び登場。会場からは笑い声も上がる中、「再び皆さんにお会いできて光栄です」とジョークを飛ばしたベイティは、今年は間違えることなく「シェイプ・オブ・ウォーター」を発表し、リベンジを果たしました。

 1月に行われたゴールデン・グローブ賞ではセクハラへの抗議として黒いドレスを身にまとって出席した女優たちも、90回という節目の年を迎えた権威あるアカデミー賞ではセクハラ批判一色になることを避けて華やかなドレスで登場。ジェーン・フォンダらが「タイムズ・アップ(もう終わり)」と書かれたピンバッジをつけて出席したほか、セクハラ問題についてどう切り込むのか注目されたキンメルが「これ以上、見て見ぬ振りをすることはできません。世界中が私たちがどう変えていくか注目しています。模範にならなければいけない」と言及する場面もあったものの、セクハラを告白する#MeToo運動が始まって以来、各授賞式で沸き起こっていたセクハラへの強い抗議はこの日は鳴りを潜め、セクハラ問題にはあまり触れずに映画やそれに携わる人々を称賛する授賞式となりました。そんな中、「Dear Basketball」で短編アニメ賞を受賞した元NBAロサンゼルス・レイカーズのスター選手コービー・ブライアントが、03年に19歳の女性にレイプしたとして告発された過去が再び蒸し返され、批判にさらされています。セクハラや政治的な内容を避けて本来の趣旨である映画の祭典に再び光を当てた授賞式でしたが、ネットには「レイプをした人にオスカーを受賞する資格があるのか」とネガティブなコメントが多数書き込まれています。

 ワインスタイン氏からのセクハラを告白した女優たちは、「(#MeTooは)まだ終わらないということを知ってもらいたい」と活動継続を宣言しており、ハリウッドは今年もこの話題からは避けて通れないようです。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)