演歌・歌謡曲の世界で「第7世代」と呼ばれる若手歌手が台頭しています。日刊スポーツ・コムでは「われら第7世代!~演歌・歌謡曲のニューパワー~」と題し、音楽担当の笹森文彦記者が、気鋭の歌手たちを紹介していきます。今回からは青山新(21)の登場です。石原裕次郎さんや小林旭が活躍した日活映画の主題歌をほうふつとさせる曲調と歌唱の「魅力」に迫ります。

きらめく木々を背に笑顔を見せる青山新(撮影・足立雅史)
きらめく木々を背に笑顔を見せる青山新(撮影・足立雅史)

青山は老舗レコード会社「テイチクレコード」の創立85周年、そして老舗芸能事務所「芸映」の創立60周年歌手として、20年2月5日にシングル「仕方ないのさ」(作詞・麻こよみ、作曲・水森英夫、編曲・伊戸のりお)でデビューした。テイチクにとっては創立70周年の北山たけし(47)以来の記念アーティスト。芸映にとって演歌・歌謡曲系の男性歌手デビューは、76年の角川博(67)以来になる。

青山 最初はプレッシャーがありました。(2つの)すごい歴史ですから。でも先輩方が「めったにない誇らしいことだよ」と言ってくださって。プレッシャーを感じつつ、自信を持って胸を張って頑張ろうと思いました。

託されたデビュー曲「仕方ないのさ」は、昭和の映画黄金期を支えた日活映画の主題歌をほうふつとさせる。「仕方ないのさ 仕方ないんだよ…もう泣かないで」と、好きで別れる恋もあることを歌う哀愁歌謡だ。

青山新のデビュー曲「仕方ないのさ」のジャケット
青山新のデビュー曲「仕方ないのさ」のジャケット

テイチクといえば、国民的スター石原裕次郎さん(享年52)が歌手として所属していたレコード会社。裕次郎さん専用だった外国製マイクが、今も大切に保管されている。日活の数々の映画に主演し、主題歌や挿入歌、デュエットをレコーディングした。「銀座の恋の物語」「二人の世界」「赤いハンカチ」「夜霧よ今夜も有難う」「俺は待ってるぜ」「狂った果実」「錆びたナイフ」「嵐を呼ぶ男」など大ヒット作が連なる。

映画とともに主題歌も大ヒットした。裕次郎さんには「ブランデーグラス」「恋の町札幌」「北の旅人」「我が人生に悔いなし」など映画とは関係のないヒット曲も数多いが、昭和の映画全盛期を支えた名曲の数々は不滅だ。

裕次郎さんとともに日活黄金期を支えた小林旭(82)も、「ダイナマイトが百五十屯」「ギターを持った渡り鳥」「ズンドコ節」「北帰行」「自動車ショー歌」など、主演映画の主題歌や挿入歌を歌手としてヒットさせた。裕次郎さんと同様、「昔の名前で出ています」「熱き心に」「腕に虹だけ」など映画とは別のヒット曲も数多い。その小林も2010年から一時期、テイチクに所属したことがあった。テイチクに移籍した際、小林は「今、やつ(裕次郎さん)が生きていたら、どんな顔をするかな」と話していた。

リラックスした表情を見せる青山新(撮影・足立雅史)
リラックスした表情を見せる青山新(撮影・足立雅史)

青山の「仕方ないのさ」を聴くと、裕次郎さんや小林旭が築き上げた日活映画黄金期の主題歌の旋律や律動が鮮やかに浮かんでくる。当時を知る世代には懐かしく、若い世代には新鮮な曲に聞こえる。

青山 師匠の(作曲家)水森英夫先生に5年間レッスンを受けてデビューしました。その間たくさんの懐メロや昭和の名曲を覚えて、レッスンを受けました。そこでよく石原裕次郎さんや小林旭さんの歌を課題曲として出されてレッスンを受けました。その世界観が、哀愁のある僕の歌い方に合っていると作っていただきました。青山新と言えばこういうスタイルだというイメージが、皆さんに浸透したらと思います。

デビュー前に「嵐を呼ぶ男」「銀座の恋の物語」「俺は待ってるぜ」など、裕次郎さんが主演した数多くの映画を見て、しっかりとした世界観を描けるように勉強したという。

今年2月3日に発表した新曲「霧雨の夜は更ける」(作詞・麻こよみ、作曲・水森英夫、編曲・伊戸のりお)も、その世界観を継承した。「何も言うなよ 分かっているさ つらい男の胸の内…」と失恋した友人を慰める。昭和の男の友情を感じる歌である。

青山 歌詞の「仕方ないのさ」から「何も言うなよ」は、より男っぽくなったと思います。ファンの方に、デビュー曲の新さんと違ったように聞こえたとおっしゃっていだいて。それがいい意味なのか悪い意味なのかは分かりませんが、1年間歌ってきて成長できたのかなと思ったりしています。

デビューは20年2月5日。新型コロナウイルス感染症の猛威が始まる直前だった。

青山 2月いっぱいは、当たり前のように人様の前で歌わせていただいて、毎日のように歌う場所がありました。ところが3月に入ってからは状況が一変しました。そんな中でも、しっかり見てくださって、応援していただいていることを本当に感謝します。当たり前のことなのですが、ファンの方がいて自分がいるんだということを、この1年で実感できたの本当に大きな収穫だと思っています。(つづく)

青山新のデビュー曲「仕方ないのさ」のジャケット
青山新のデビュー曲「仕方ないのさ」のジャケット

◆青山新(あおやま・しん)2000年(平12)5月30日、千葉県生まれ。サッカー少年だったが、美容院を営む祖母の影響で演歌に興味を持つ。中学2年で出場したカラオケ大会で関係者の目に留まり、作曲家水森英夫氏(71)に弟子入り。20年2月5日に「仕方ないのさ」でデビュー。キャッチフレーズは「歌にまっすぐな19歳」。今年2月3日に第2弾「霧雨に夜は更ける」発売。趣味はサッカー、ギター、書道、クレーンゲーム機、ビリヤード。特技の模写はプロ級。好きなアーティストは八代亜紀、青江三奈、前川清、山本譲二。170センチ、55キロ。血液型O。


◆第7世代 もともとは若手芸人が提起したお笑い世代の区分で、第1世代のコント55号、ザ・ドリフターズから7世代に分けた。この発想を戦後歌謡界に当てはめたのが演歌・歌謡曲版。第1世代は三橋美智也、春日八郎、三波春夫ら。第2世代は美空ひばり、島倉千代子、江利チエミら。第3世代が北島三郎、五木ひろし、森進一、千昌夫、都はるみ、水前寺清子、大月みやこら。第4世代が八代亜紀、石川さゆり、坂本冬美、藤あや子、細川たかし、吉幾三ら。第5世代が水森かおり、氷川きよしら。第6世代が山内恵介、三山ひろし、竹島宏、純烈、市川由紀乃、丘みどりら。お笑いでは「3・5世代」「4・5世代」などさらに分類する場合もある。


◆笹森文彦(ささもり・ふみひこ) 北海道・札幌市生まれ。早大第1文学部心理学科卒。1983年入社。文化社会部で長年音楽記者。初代ジャニーズ事務所担当。演歌・歌謡曲やアイドルだけでなく、井上陽水、矢沢永吉、松山千春、長渕剛、アリス、中島みゆきらをインタビュー。93年から日本レコード大賞審査員を務め、16年は審査委員長。テレビ朝日系「ワイド!スクランブル」「スーパーモーニング」、東日本放送などテレビ朝日系東北6県番組「るくなす」、福岡放送「めんたいワイド」などにコメンテーターとして出演。座右の銘は「鶏口牛後」。血液型A。

「われら第7世代!~演歌・歌謡曲のニューパワー」は毎週日曜更新です。