東京・世田谷パブリックシアターの客席について、周囲を見回して驚いた。満席だった上に、立ち見まで出ていたのだ。同劇場で立ち見が出たのは珍しいが、今人気の生田斗真、菅田将暉の共演舞台とあれば、当然か。

 舞台は英国の人気劇作家トム・ストッパード原作の「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」。主人公は、シェークスピアの「ハムレット」にハムレットの幼なじみとして登場するローゼンクランツとギルデンスターンの2人。ハムレットのイングランド行きに同行するが、国王の書状に「この書状を読み次第、すぐさまハムレットの首をはねよ」とあるのを、「この手紙を持参した両名を処刑せよ」と書き換えられてしまう。その後は、最後の場面で「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」の1行で片付けられてしまう、なんとも存在感の薄い2人なのだ。

 しかし、この舞台では、ローゼンクランツ役の生田とギルデンスターン役の菅田が、そこはかとない哀しみをたたえた若者として舞台にくっきりと立ち上がっていた。最初こそ、コインの裏表を賭け合う、のんきなロズとギルだが、ハムレットの狂気の真偽を調べるよう命令されて、混沌(こんとん)の中に放り込まれる。自分たちを呼び寄せた目的は分かるが、目的を果たすにはどうすればいいか分からずに混乱する2人。オタオタする2人をよそに、「ハムレット」の物語は粛々と進行していく。心ならずも、物語の登場人物としての役回りを果たすが、それは「死」という過酷な運命をたどる道でもある。ハムレットや国王という主筋の傍らにあって、存在感も薄く、翻弄されるだけの2人だが、科せられた目的のために必死に食らい付いていく。そんな愚かしくも哀しい2人の若者を生田、菅田が膨大なせりふと戦いながら、懸命に演じた。

 生田は「ロズがボケてギルが突っ込むテンポ良い掛け合いの面白さが楽しめるのもこの戯曲の魅力。関西出身の菅田君は、何をやっても絶妙の間合いでツッコんでくれるのが頼もしい」と言えば、菅田も「ギルのセリフ量は膨大で難しい言葉も多いし、最初は新たな挑戦のような気持ちでいた。でも、稽古に入ってから、どこか新入生のような、俳優としての原点に立ち返ったような感覚になっています」と話している。

 今回の演出は新国立劇場の次期芸術監督の小川絵梨子で、不条理劇風な演出で魅力的ば舞台を造形した。かつてロズ&ギルには今年亡くなった名優日下武史や角野卓造、矢崎滋、そして若き日の古田新太と生瀬勝久がコンビで挑んでいる。演劇界を代表する俳優たちが演じてきた役に生田と菅田は果敢に挑み、結果を残した。【林尚之】