劇団や演劇製作会社などが加盟している公益社団法人「日本劇団協議会」が発行する雑誌「join」最新号で、「私が選ぶベストワン2018」を特集している。

演劇記者、演劇評論家、演劇ライター、大学教授など93人が、昨年1年間に上演された舞台から、「作品」「主演俳優」「助演俳優」「演出家」「スタッフ」「戯曲」などの項目で、それぞれがベストワンを選出している。

結果を見ると、「作品」の1位は9票を集めた「チルドレン」。英国の女性作家カークウッドの作品で、若村麻由美、高畑淳子、鶴見辰吾が出演した。大地震でメルトダウン(炉心溶融)を起こした原発をめぐる、科学者たちの葛藤を描いている。東日本大震災に触発されて書かれたものだが、こういう作品が日本ではなく、英国で生まれたことはちょっと驚きだった。

「主演俳優」は蒼井優が12票でトップ。「スカイライト」「アンチゴーヌ」に主演した蒼井は紀伊国屋演劇賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞、読売演劇大賞最優秀女優賞と、演劇の主な賞を総なめにしており、昨年の蒼井が抜きんでていた。2位は「おもろい女」の藤山直美で、5票だった。

「助演俳優」は文学座の浅野雅博と松尾貴史の2人が5票で並んだ。浅野は「スカイライト」で蒼井と共演している。松尾は「ザ・空気ver2 誰も書いてはならぬ」で、首相官邸に忖度(そんたく)する大手新聞の政治記者を演じたが、その姿はおかしくも、現実味があった。

「演出家」の1位は「チルドレン」「アンチゴーヌ」「母と暮せば」など、いずれも高い評価を受けた、多彩な作品を演出した栗山民也。16票も集めた。

「戯曲」は青年団平田オリザ「日本文学盛衰史」の8票。高橋源一郎の同名小説を平田流に舞台化したもので、北村透谷、正岡子規、二葉亭四迷、夏目漱石の通夜を舞台に、さまざまな作家が登場する。私が選考委員を務めた「鶴屋南北戯曲賞」も受けた。

ちなみに、私のベストワンは「作品」が「母と暮せば」、「主演俳優」が鈴木杏、「助演俳優」が梅沢昌代、「戯曲」が内藤裕子「藍ノ色、沁ミル指ニ」。

鈴木は、ケラリーノ・サンドロヴィッチの「修道女たち」で演じた少女オーネジー役が切なくいとおしかった。3年前に読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞したが、その時に親友の蒼井がお祝いにバッグをプレゼントした。今年、同じ賞を受賞した蒼井の授賞式に、鈴木は贈られたバッグを手にお祝いに駆けつけた。演技派の良きライバルである。

梅沢は文学座出身のベテランだが、大竹しのぶ主演の「ピアフ」では、ピアフにその晩年まで寄り添う親友を演じた。4回目となる昨年の公演前に梅沢は「お芝居って、完成はないから、4回目でも頑張らなきゃいけない」と話した。

特集は毎年の恒例だが、自分が票をいれた俳優が翌年も活躍するとうれしくなる。鈴木杏、梅沢昌代はどうだろうか。

【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)