ミュージカル映画「キャッツ」が、米アカデミー賞に合わせて最もひどい映画を決めるゴールデン・ラズベリー賞(ラジー賞)で、作品賞、監督賞、脚本賞など「6冠」を獲得した。人気ミュージカルの映画化で、期待が高かっただけに、その反動もあって、多くの票を集めたようだ。

私も「キャッツ」は、83年の劇団四季の初演以来、30回以上は見ており、ロンドンでも観劇した。映画も楽しみにしていたが、突っ込みどころがいっぱいで、正直、期待外れだった。その口直しで、大井町で上演中の劇団四季「キャッツ」を見たけれど、やっぱり、「キャッツ」は舞台に限ると思った。映画にはなかった芝居猫ガスが演じるグロールタイガーをほんろうするグリドルボーンの悪女猫ぶりに、「これでなくちゃ」とうれしくなった。

その「キャッツ」が先日、読売演劇大賞の芸術栄誉賞を受賞した。83年の初演以来、昨年で上演回数1万回を突破した。上演回数こそ、「ライオンキング」に抜かれているけれど、日本にロングランシステムを根付かせたこと、ミュージカルのファン層の裾野を広げたことなどが高く評価された。

贈呈式で、劇団四季の吉田智誉樹社長は「亡くなった浅利慶太に知らせることができたらと思いました」と、「キャッツ」上演に奔走し、2年前に亡くなった劇団四季元代表の浅利さんに思いをはせた。

「現役の我々というより、浅利をはじめ、これまで作品をつないできてくださった先輩方が受賞されたんだなと思います。『キャッツ』に関わった俳優さんとスタッフさんの数を数えてみたら、それぞれ500人ずつおりまして、こんなにもたくさんの方々が『キャッツ』を支えてきたのだなと気付きました。師匠が作品に託した祈りを、しっかり引き継いでいきたいと思います」と話した。

「キャッツ」の37年の歴史の中で、亡くなったり、退団した人も多い。掃除おばさん猫ジェニエニドッツを初演以来演じた服部良子さんは4251回も出演したが、07年に55歳で亡くなった。グリザベラを演じた志村幸美さんは98年に39歳の若さで亡くなった。お墓には「劇団四季 キャッツ主演女優 志村幸美」と刻まれているそうです。

1年半ぶりに見た「キャッツ」の出演者は、かなり変わっていた。キャッツシアターのある土地の借地期限の関係で、来年夏に千秋楽を迎える。その後の上演地は未定だが、40周年に向けて、ロングランは続いていく。浅利さんが「キャッツ」に託した祈りは、今出演している若い俳優たち、1人1人に着実に継承されるだろう。それが劇団四季の変わらぬ強みでもある。【林尚之】

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)