公演中止が相次いで、舞台関係者は窮状を訴えているけれど、落語家も大変なことになっている。都内でも鈴本演芸場、末広亭、浅草演芸場、池袋演芸場などの寄席が5月6日まで興行を休み、個人的に行っている落語会なども軒並み中止となっている。先日、ある落語家に話を聞いたら、「3月、4月はまったく仕事がないんです」と嘆いていた。

その言葉通りの実態が、上方落語協会(笑福亭仁智会長)のアンケート調査でも明らかになった。アンケートは4月に2回にわたり実施され、協会に所属する268人の落語家と寄席ばやし演奏者のうち約4割(約110人)が回答した。調査結果によると、2月以降の公演キャンセルは2900件以上で、損失の総額は7800万円以上になるという。そして、71%が4月の収入を「無収入」と予想している。さらに、79%が4月以降の新しい仕事の依頼は「まったくない」と答えている。

東京の落語協会(柳亭市馬会長)、落語芸術協会(春風亭昇太会長)はアンケート調査こそやっていないが、その実態は上方落語協会のアンケート結果同様に厳しいものがあるだろう。さらに、3月から5月にかけての春の新真打ちの昇進披露興行も大きな影響を受けた。

落語協会では3月下席からたん丈あらため三遊亭丈助、春風亭一左、歌太郎あらため三遊亭志う歌、柳亭市楽あらため6代目玉屋柳勢、三遊亭歌扇の昇進披露が始まっていたが、4月4日以降は中止となったし、落語芸術協会では、5月上席から予定した昔昔亭A太郎、瀧川鯉八、伸三あらため桂伸衛門の昇進披露を秋以降に延期した。また、4月1日から始まった五代目円楽一門会の三遊亭鳳笑、三遊亭楽大の披露興行も6日から中止となった。立川流の立川志の春も4月に真打ちに昇進したが、披露落語会は6月に延期した。

晴れの門出の出ばなをくじかれた感があるけれど、楽大は「知らずに来る方もいるかもしれない」と、開演時間前から会場の両国寄席に詰め、知らずに訪れたお客さんに、昇進の際に作った手ぬぐいを渡したそうだ。途中で中止となった末広亭でも、トリの予定だった新真打ちが「休みに知らずに来られたらと思って」と入り口に待機する姿もあったという。

寄席の灯が1カ月も消えるのは、9年前の東日本大震災の時にもなかったこと。寄席や落語会という仕事の場を奪われた落語家たちは、ユーチューブなどでの生配信などで自らの高座を発信している。先が見通せない状況だが、「少しでも笑いを届けたい」という思いが、次につながることを願っている。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)