話題の3歳の歌姫、村方乃々佳(ののか)ちゃんが東京・歌舞伎座にも登場した? といっても、もちろん本物ではありません。

十月大歌舞伎の第三部「松竹梅湯島掛額」で、尾上菊五郎演じる紅屋長兵衛が、心も体も柔らかくふにゃふにゃとなる不思議な砂、お土砂を人々にかけまくる場面で、おだんご頭の女の子が「まいごのまいごのこねこちゃん」と童謡「いぬのおまわりさん」を歌いながら登場しました。おだんご頭に「いぬのおまわりさん」と言えば、今、人気の、ののかちゃんしかいません。

ののかちゃんは、昨年11月に「童謡こどもの歌コンクール」で「いぬのおまわりさん」を歌い、こども部門の銀賞を史上最年少2歳5カ月で受賞。愛らしいしぐさと安定した歌声でSNSを中心に注目を集め、今年5月にCDデビューする一方、テレビでもバラエティー番組、情報番組、歌番組などに出演する人気ぶりです。

今回、ののかちゃんを演じたのは市村橘太郎(60)。彼女の身ぶりや歌い方を研究し、3歳の女の子になりきっての熱演でした。菊五郎が主演する初春歌舞伎では、その時に話題になっているものを取り入れる趣向が人気ですが、今回もののかちゃん以外に、片岡亀蔵がAdoのヒット曲「うっせぇわ」から「うっせぇうっせぇうっせぇわ」と叫んだり、東京五輪開会式で注目された「ピクトグラム」も登場しました。ただ、歌舞伎座の観客には、ののかちゃんや「うっせぇわ」の曲を知らない人もかなりいたようですが、大みそかのNHK紅白歌合戦には、ののかちゃんも「うっせぇ」も何らかの形で出演する可能性は高いでしょう。

今月の歌舞伎座では、ののかちゃんの88歳年上の91歳、市川寿猿(じゅえん)も元気に第一部「天竺徳兵衛新噺」に出演しています。寿猿は8月下旬に新型コロナの陽性と判明し、自宅療養していました。91歳の高齢だけに関係者も心配しましたが、2回のワクチン接種を受けていたこともあって、重症化することはありませんでした。熱も上がらず、食事もおいしく食べられたそうで、9月中旬には保健所から自宅待機終了の連絡を受けました。今回の舞台では市川猿之助とともに庄屋満寿兵衛役で出演しています。主役ばかりでなく、「ののかちゃん」を演じる橘太郎、91歳現役の寿猿など、脇役の頑張る姿を見るのも、歌舞伎観劇の楽しみの1つです。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)