偶然、銃を拾ったことで、銃に翻弄(ほんろう)され、日常が狂気を帯びていく。電気が止められ、ゴミがあふれたアパートに1人で暮らす女・東子をモデル、女優、ミュージシャンとしても活躍する日南響子が感性豊かに演じている。

芥川賞作家・中村文則のデビュー作を映画化した「銃」(18年公開)を新たな視点で描く。前作と同様に企画・製作を奥山和由プロデューサーが担当、「全裸監督」の武正晴監督がメガホンをとった。

ある日、東子は拳銃を拾う。部屋に持ち帰り、日記にこう記す。「こんなに奇麗で、不機嫌そうなものを、私は他に知らない」。拳銃の中には弾丸が4つ入っていた。つらい過去を持ち、孤独な東子は銃を恋人のようにいとおしむ。ベッドの官能的なシーンは魅惑的だ。

個性派俳優が脇を固める。銃の持ち主を知る謎の男・佐藤浩市のすごみ、東子を執拗(しつよう)に追い回すストーカー、加藤雅也のM男ぶり、東子を毛嫌いして精神を病んでいる母、友近の怪演。どのシーンからもピンと張り詰めた緊張感が伝わってくる。狂気に満ちた作品だが、救いがある。【松浦隆司】

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