ヤギを背負った若者が、コートジボワールの街中をバイクで疾走するシーンから映画はスタートする。その後、舞台はフランスの山中の寒村に飛ぶ。女性の失踪事件が発生し、周囲との関わりを避ける無愛想な羊飼いが疑われる。その羊飼いと不倫する社会福祉士の女性や、その女性に隠れてインターネットで恋愛に興じる牧牛業を営む夫ら、秘密を抱えた人々が次々と登場し、交錯していく。

一見、無縁に見える5000キロ離れた両地を結ぶのは、うだつの上がらない若者がコートジボワールから仕掛けた、ネットを通じた恋愛詐欺だ。そこから偶然が連鎖し、悪意のない人が殺人者になってしまう。1つの事象を登場人物たち、それぞれの視点で語り、点が線でつながっていく。

フランス、ドイツ合作映画と聞くと、邦画のように足を運びにくいと感じる人もいるかも知れないが、パズルを組み上げていくような緻密さで、伏線が回収されていく物語は日本人好みだろう。19年の東京国際映画祭でコンペティション部門で最優秀女優賞と観客賞を受賞し、米国の映画評論サイト「ロッテン・トマト」でも高評価を得た。R15+指定作品だが、4日から複数の配信プラットフォームでデジタル公開も始まる。夫婦、恋人同士で見て、恋や愛について考えるのも一興だろう。【村上幸将】

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