劇団理事を務める専科スター轟悠が、ソフォクレス原作のギリシャ悲劇「オイディプス王」で、約1年ぶりの主演作に臨んでいる。「親殺し」「母親との婚姻」が鍵になる悲劇の傑作を、いかに宝塚“らしく”仕上げるか。「最後まで悩みながら」古代ギリシャの王を演じる。兵庫・宝塚バウホールで23日まで上演中。

 劇団理事、筆頭スターとして100周年を引っ張ってきた轟は、劇団新世紀1年目を大事にとらえる。

 「焦らず、慌てず、しっかりと地に足を着けて。100周年は、多くの方が宝塚を応援して支えてくださっていた。感謝を忘れず、足踏みしてもいけない。この先数年、複雑な時期を迎えると思います」

 自身約1年ぶりの主演作で、ギリシャ悲劇を演じる。「父を殺し、母を娶(めと)る」との予言から逃れるべく、国を出た王子が違う国で王になり、前王殺害事件を探るうち、悲劇的な事実を知る物語。過去に蜷川幸雄氏の演出で野村萬斎、OG麻実れいらが出演して舞台化もされている。

 「歌が各所にあって、宝塚的な要素を取り入れたオイディプス王として、言葉づかい、セリフも(直接的な表現を避け)宝塚ファンのお客さまに親切に、生々しくならないように」

 長ゼリフもあり、人間ドラマとしての側面もある。「王として、絶対に(前王殺しの)罪人を捜し出す。正義感が強く、曲がったことも許せない人」。説明する轟も、役柄に共感する。

 「自分で決めたことを曲げるのは嫌い。口にしたらやる。でも間違っていたら素直に謝ります。ここまで強くないですが(笑い)」

 雪組トップ時代は「身をすり減らしてでも」組子を守ろうとしてきた。「私が悪く思われることは構わない」。強いリーダー像を自らに求めた。幼い頃から正義感は強かった。

 「小学生のとき、仲のいい(女)友だちがいじめられ、私がその仕返しに行ったことが…。そんな子だったので、年上の子から『態度が大きい』って呼び出されて、取っ組み合いになったこともありました」

 ただ、自分の感情はうまく表現できなかった。言葉数の少ない少女だった。

 「泣きもせず、笑いもしない。思いを内に秘めるタイプ。それで誤解されるならいいや、と。でも宝塚に入って、表現できる場を得たように思います。宝塚が育んでくれた。感謝の気持ちは年々、大きくなる」

 今年で入団30年。節目に難役がめぐってきた。「オイディプス王は(人間味が)細かく出ている。自分を追求していきたい」。設定は紀元前450年頃。占術を頼りに治世していたが、轟は「私は占いには…頼りません!」と笑う。

 宝塚音楽学校時代、同期に誘われ、タロット占いを初めて経験した。当時、本科生で薄化粧にさっぱりした私服、黒髪の短髪だった。「OLさんに見えたみたい。『あなたは今の職業が合っていません。変えた方がいい』って。まだ働いてないのに(笑い)。でも、私はその場所に30年いる」

 いくら稽古を重ねても、舞台では何が起こるか分からない。「自分が一番、自分を信じられない。でも、今の私だから、この(難しい)作品がきた。誇りを持って、ぶつかりたい。私も皆さまと同じ、宝塚が好きな1人の人間ですから」。ストイックさは変わらず、宝塚新世紀もけん引していく。【村上久美子】

 ◆ギリシャ悲劇 オイディプス王~ソフォクレス原作「オイディプス王」より~(脚色・演出=小柳奈穂子氏) 古代ギリシャ3大悲劇詩人の1人、ソフォクレスの戯曲は、ギリシャ悲劇の中でも最高傑作とされ、各所で上演されている。古代ギリシャ・コリントスの王子オイディプス(轟)は「父を殺し、母を娶(めと)るであろう」との予言を受けたため、放浪の旅に出る。テーバイ国で怪物を追い払い、請われて同国の王となり、前王の妃イオカステ(凪七)を妻に迎えるが、悲劇的な真実を知る。

 ☆轟悠(とどろき・ゆう)8月11日、熊本県生まれ。85年「愛あれば命は永遠に」で初舞台。97年雪組トップ、02年専科、03年から劇団理事。00年「凱旋門」で文化庁芸術祭優秀賞、02年「風と共に去りぬ」で菊田一夫演劇賞を受賞。「おかしな二人」(11、12年)「第二章」(13年)と、ニール・サイモン作の喜劇にも挑戦。昨年は星組本拠地作「The Lost Glory」に出演し、主演。趣味は油彩画、デッサン画。168センチ。愛称「トム」「イシサン」。