「VIVANT」(TBS)の一人勝ちで終わった夏ドラマが終了し、来週からいよいよ10月期の秋ドラマシーズンがスタートする。目玉作品に欠けるという下馬評も多い中、どの作品が秋の話題をさらうのか。今期も40番組以上の秋ドラマを配信するTVer小原一隆プロデューサーに、注目ポイントを聞いた。
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◆「VIVANT」に続くか、「下剋上球児」
-いまだ「VIVANT」の余韻に沸くTBS日曜劇場枠ですが、新作は鈴木亮平主演の「下剋上球児」(日曜9時、15日スタート)です。完成度の高い作品性で多くのファンを持つ新井順子P×塚原あゆ子監督のタッグが、日曜劇場に初登板というのも話題です。
小原 新井×塚原コンビといえば、「アンナチュラル」「最愛」など金曜ドラマ枠のミステリーのイメージがありますが、日曜劇場枠で、それもスポーツ感動モノで、どんな手腕を見せてくれるのか楽しみです。予算をかけた勝負作「VIVANT」を大ヒットさせた後に、しっかりエースコンビをスタンバイしておくTBSの編成戦略はさすが。「VIVANT」と客層は違う感じですが、テーマ的に幅広い世代をねらっていける作品として注目です。
◆オリジナルずらり、フジテレビの挑戦
-ほかに注目しているポイントは。
小原 日曜劇場と並ぶ看板枠であるフジテレビ月9は押さえておきたいですね。二宮和也さん、中谷美紀さん、大沢たかおさんのトリプル主演で“聖夜の1日”を描く「ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~」(9日スタート)は、キャストの豪華さも含めて注目しています。
-フジは、「silent」チームが手がける木曜劇場「いちばんすきな花」(木曜10時、12日スタート)も男女4人のクアトロ主演(多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠)。月9と木曜劇場だけで主演が7人もいます。
小原 同じ局でトリプルやクアトロの試みがかぶってしまいましたが、配信の視点から見ると、複数主演はいろいろな関連コンテンツを展開させやすい立て付けでもあって、今後増えてくるかもしれません。フジはこの2本に加え、月10「トクメイ! 警視庁特別会計係」(主演橋本環奈、16日スタート)、金9「うちの弁護士は手がかかる」(主演ムロツヨシ、13日スタート)もオリジナル。攻めた姿勢が、いい方向に出てくれることを期待したいです。
-「VIVANT」も「silent」も、オリジナルで先が読めないから受け手が夢中になった。企画を通すのも作るのも大変ですが、やはりオリジナルはドラマの醍醐味(だいごみ)と感じます。
小原 そうですね。ここ10年くらい、ドラマ界は原作モノが多すぎたと感じていて。倉本聰先生、山田太一先生、橋田寿賀子先生などの時代にさかのぼれば、作家性あふれるオリジナルを毎週楽しみにするというのがテレビドラマの原点だと思うんですよね。7月期の再生数を見ると、「VIVANT」の次に多かったのが「最高の教師」(日テレ系)で、これもオリジナル。受け手の需要は高いです。
◆水曜対決は異種格闘技戦
-日テレVSフジの水曜10時対決はどうでしょうか。ホームドラマと“パリピ”の異種格闘技戦という様相ですが。
小原 日本テレビ「コタツがない家」(18日スタート)は、私自身も楽しみにしている作品です。主演の小池栄子さんがダメ男3人(吉岡秀隆、作間龍斗、小林薫)を養うお話。「俺の話は長い」など会話劇に定評のある金子茂樹さんのオリジナル脚本で、ダメ男3人の会話がおもしろそうですよね。小池さんは「俺の話は長い」にも出ていらして、この座組みでつまらないはずがない。
-一方のフジ「パリピ孔明」(主演向井理、放送中)は、現代の渋谷に来た天才軍師・諸葛孔明が、魔法のような策略でシンガーを成功に導くサクセスストーリーです。
小原 原作めちゃくちゃおもしろいし、個人的に三国志も大好きなので、こちらも外せない。まったく毛色の違う作品同士の直接対決ですが、こういううれしい悲鳴もいいですね。
◆テレ朝系「木曜ドラマ」のブランド化
小原 もうひとつ注目作に挙げたいのが、テレビ朝日系木曜9時の「ゆりあ先生の赤い糸」(主演菅野美穂、19日スタート)。夫が倒れ、次々と隠された人間関係を知ることになった主婦が主人公ですが、人気の原作漫画を橋部敦子さんがどうお書きになるのか楽しみです。この枠は、7月期の「ハヤブサ消防団」が本当に素晴らしくて。テレ朝さんというと、警察や医療の1話完結もののイメージが強いですが、「ハヤブサ」は連続する物語を最後まで圧倒的なクオリティーで見せた。この流れで快作を続けて、木曜9時が新たにブランド化されていくといいなと思います。
◆深夜枠
-深夜枠の注目作もお願いします。
小原 MBSさんの制作で、佐々木蔵之介さん主演の「マイホームヒーロー」(TBS系火曜深夜、24日スタート)に注目しています。漫画が原作で、ある中年男が娘の恋人を殺したところから始まるピカレスクなのですが、すごい家族愛の物語でもある。僕がフジテレビの映画部にいた時から、映画化をめぐって各社で争奪戦が展開されていた原作なのですが、そんな題材をMBSさんが獲得して、それも深夜でやっちゃうんだというのは衝撃。来春には映画版も公開される大型プロジェクトで、MBSさんの手腕に期待したいです。
◆TVer(ティーバー) 民放各局のコンテンツを完全無料で楽しめる民放公式テレビ配信サービス。常時約650の見逃し配信のほか、スポーツなどのライブ配信、民放5系列のゴールデン、プライムタイムを中心とした番組をリアルタイム配信。
【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)