仲代達矢(83)が来年10月から、ブレヒトの反戦劇「肝っ玉おっ母と子供たち」を石川・七尾市の能登演劇堂を皮切りに全国で上演する。88年以来29年ぶりに「女役」に挑む仲代は「今年12月で84歳。残った人生であと何本芝居が出来るか分からない。戦争の愚かさを描く『肝っ玉』を役者人生の締めくくりでどうしてもやりたかった」と語った。

 最近は「あと30本、やりたい作品がある」と公言していたが、今回は反戦劇を選んだ。「僕は戦争を体験した世代。危うい状況になっている今の時代に戦争のむごさ、愚かさを伝えたかった」。「肝っ玉-」の主人公アンナは軍隊に付き従う女商人。3人の子供を戦争で失いながらも、軍隊から離れられない、たくましくも哀れな姿を描いている。「この作品で戦争反対と叫ぶ人はおらず、戦争で食っている人ばかり。それがかえって、見る人が戦争のむごさを判断する作品になっている」。

 女役は妻の演出家隆巴氏の勧めだった。「見た目の大きさがほしかったようです。女性のかつら、着物は着るけど、女っぽくせず、僕も女性にふんしていると思わずにやっている」。19年前に87歳で亡くなった母親愛子さんに似た部分もあるという。「31歳で夫を亡くし、女手一つで僕らを育ててくれた。そのたくましさは参考になった」。

 セリフも多く、2曲を歌う。「公演は来年10月だけど、1月からセリフの自主稽古を始める。年齢とともに記憶力が落ちているから、早く始めたい」。能登演劇堂で10月14日から11月12日まで25回公演のロングランとなる。「町の人も協力してくれて、エキストラで出てもらう予定です」。その後、18年3月まで全国を巡演する。「肉体的に衰えて、仲代の限界も分かっている。でも、失敗してもいいから挑もうと思った」。役者人生の集大成の舞台となる。【林尚之】