女優広瀬すず(19)主演の日本テレビ系の連続ドラマ「anone」(水曜午後10時)が、今日10日にスタートする。6月に20歳の誕生日を迎える広瀬にとって、10代最後の連ドラだ。あともう少しで放送される第1話を、一足先に見た。
広瀬演じる通称ハズレこと辻沢ハリカは、1泊1200円のネットカフェに寝泊まりして暮らしている。仕事は清掃のバイト。孤独死した老人の部屋をきれいに片付けて日当をもらい、移動の手段はスケボー。ネットカフェで知り合った仲間と弁当を食べ、スマホのチャットで知り合ったカノンと名乗る男との会話が数少ない楽しみ。家族のぬくもり、生きる手段を知らないハリカだが、優しい祖母(倍賞美津子)の家で育った大切な記憶が心を温めてくれる。ある日、ネットカフェの仲間が海辺で大金を発見したことから物語が動き始める。
一方、1年前に夫を亡くした法律事務所事務員の林田亜乃音(田中裕子)は、印刷工場だった自宅の床から1万円札の束を発見する。そしてハリカと林田は出会う。ここに余命を告げられたカレーショップ店長(阿部サダヲ)と意気投合する謎の女(小林聡美)のカップルが絡んでくる。
1話ということで、今後のストーリー展開の鍵となる伏線がさまざまに張られている…はずだ。絡み合った人間模様が展開していく期待を持たせてくれた。トレードマークだったボブカットをバッサリ切って、短くした前髪越しに世の中を見つめるハリカ、広瀬すずの視線が印象的だ。
脚本は坂元裕二氏(50)、演出は日本テレビの水田伸生監督(59)、そして同じく次屋尚プロデューサー(52)という、同局の「Mother」(10年)、「Woman」(13年)と同じスタッフ。「Mother」では松雪泰子(45)が、「Woman」では満島ひかり(32)が、女優としてより高い評価を得た。10代最後の広瀬が、この作品でどういう進境を見せてくれるか楽しみだ。次屋プロデューサーは「10代最後の広瀬すずのすべてを見せる」と話している。
脚本の坂元氏といえば「Mother」「Woman」に加え、近年ではフジテレビ系「最高の離婚」シリーズ、「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」、TBS「カルテット」と、人間の生き様を丹念に描いた作品で高い評価を得ている。個人的には91年「東京ラブストーリー」、92年「二十歳の約束」が印象深い。87年に19歳で第1回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞して、フジテレビの大多亮プロデューサー(現常務、59)と組んで鈴木保奈美主演の「東京-」で大ブームを巻き起こした。元SMAP稲垣吾郎(44)と牧瀬里穂(46)のダブル主演だった「二十歳の-」は、視聴率こそよかったが、アイドルドラマの域を出ずにブームを起こすことはなかった。その後もヒット作を書いたが、07年にフジテレビ系「わたしたちの教科書」まで大きな話題を集めることがなかった。10代の新人脚本家だった坂元氏が、50代になって人間の生き様を描く。平成のドラマ史を感じさせてくれる。
水田監督は映画「舞妓Haaaan!!!」「謝罪の王様」でも知られる、日本テレビのエース。テレビの視聴率が下がり、映画、ネット、DVDと物語を見るメディアが多様化する中で、テレビの作品で問題提起できる数少ない演出家だ。記者個人としては、92年の加勢大周主演「ポールポジション!愛しき人へ…」、高嶋政宏主演、鈴木京香ヒロイン「素敵にダマして!」、そして「進め!電波少年」のT部長こと土屋敏男プロデューサー(61)が総合演出を担当した94年の「ザ・ワイドショー」のプロデューサーとしてお世話になった。こんな人材に演出じゃなくプロデューサーを任せていた日テレって? と思わなくもないが、その経験が水田監督の演出に深みをもたらしているのだと納得しておこう。
個人的には、満足な1話の滑り出しだが、ドラマの好き嫌いはひとそれぞれ。今後の展開に注目だ。【小谷野俊哉】