日本人の特殊メーキャップアーティスト辻一弘氏(48)が、10年ぶり3度目のノミネートとなったメーキャップ&ヘアスタイリング賞で自身、そして同部門で日本人初のオスカーを獲得した。

 辻氏は、登壇すると念願のオスカー像を手に「眼鏡を忘れてしまいました」と言い、慌てて眼鏡をかけてスピーチを読んだ。

 辻氏 (主演のゲイリー)オールドマンに感謝したい。素晴らしい旅にご一緒できて、うれしく思った。素晴らしい役者でアーティストで友人…感謝しています。キャスト、スタッフと友人になれた。全員にとって夢がかなえられました。

 辻氏は作品賞にノミネートされている英映画「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」(ジョー・ライト監督、30日公開)で、主演男優賞にノミネートされた英俳優ゲイリー・オールドマン(59)から直接、オファーを受けた。辻氏がメークを担当することが出演の条件だとまで書かれた熱烈なメールに快諾し、主人公のチャーチル英首相のメークに挑戦。楕円(だえん)形の顔で両目の距離が近いオールドマンと、丸顔で目が離れたチャーチル英首相と顔の形状は正反対だったが、開発と試作に6カ月、合計200時間以上かけて、毛穴や毛細血管まで手で細かく描いた特殊メークを作り上げた。

 辻氏は10代から独学で特殊メークを学び、1987年(昭62)に米国の巨匠ディック・スミス(享年92)の住所を雑誌で知って、文通を通して師弟となった。その後、黒沢明監督の「八月の狂詩曲」(91年)、伊丹十三監督の「ミンボーの女」(92年)、米映画「メン・イン・ブラック」(97年)、「PLANET OF THE APES/猿の惑星」(01年)などの製作に関わった。そして07年「もしも昨日が選べたら」、08年「マッド・ファット・ワイフ」でメーキャップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされており、今回が10年ぶり3度目のノミネートだった。

 辻さんはロスに在住し、12年以降は美術彫刻に専念し、現代美術家としても活動している。また「ウィンストン・チャーチル-」以外にも、作品賞、監督賞と脚本賞、主演女優賞など最多13部門にノミネートされた米映画「シェイプ・オブ・ウォーター」(ギレルモ・デル・トロ監督)に登場する、不思議な異星物の目のデザインも手がけている。