片山慎三監督(38)の長編デビュー作「岬の兄妹」が先週公開された。

脚に障害のある兄が生活に困窮し、自閉症の妹に売春をさせる物語。とっつきのいい作品とは言えないが、いつの間にか引き込まれ、心を揺さぶられた。

昨年注目され、数々の賞に輝いた「万引き家族」も題材そのものは決して明るくはなかった。が、こちらは安藤サクラ、亡くなった樹木希林さん、リリー・フランキー、松岡茉優と主演クラスがそろい、何より実績のある是枝裕和監督作品という「ブランド力」があった。

対して新人の片山監督がキャストしたのは兄役が松浦祐也(37)、妹役が和田光沙(35)。昨年の注目作品である「泣き虫しょったん」や「菊とギロチン」でそれぞれ味のある脇役として光っていた人だ。今回も文字通りの巧演を見せている。が、まだ名前で観客の目を引くような存在ではない。

その点では、昨年のもう1本の注目作「カメラを止めるな!」(上田慎一郎監督)も新人監督と無名キャストの組み合わせだった。が、こちらには「37分ワンカットのシーン! 面白いけど、中身は言えない」という口コミに火を付けそうな「仕掛け」があった。これが、家族や友人と連れだって見に行こうと思わせるイベント的な魅力にもつながった。

比べて「岬の-」は、お薦めポイントを説明するのが難しい。極貧、売春…脱ぷんシーンまであって、中身を説明するほどに聞かされる方は顔をしかめる。家族や友人と一緒に見よう思える題材でもない。どちらかと言えば独りじっくりと映像に向き合う作品だ。集客へのハードルは高い。

片山監督の師匠に当たる韓国の名匠ポン・ジュノ監督は「慎三、君はイカレた映画監督だ。娼婦、陰毛、人ぷん…。それでも映画は力強く美しい」と独特の表現で絶賛している。目を背けたくなるような題材に、目をくぎ付けにする表現力。これぞ「映画の力」というべきなのだろう。

現時点で今年のマイベスト1の作品だが、今後の観客動員、そして年末年始の映画賞…どんな結果をもたらすのか。映画本来の「力」が試されている気がする。【相原斎】