今月9日ごろ、ツイッター上で「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグが爆発した。識者によると、ツイッターでこれだけの反応があったのは日本では初めてのことなのだとか。結果的に、安倍政権は今国会での法案成立を断念。盛り上がった世論の成果となった。あげくの果てには、官邸の守護神と呼ばれた人物が、賭けマージャンで失脚してしまった。

投稿したのは一般の人々に加え、俳優、作家、映画監督、漫画家、ミュージシャンら各界著名人。前例のない大規模ネットデモの様相といえる。中でも、多くの芸能人が声を上げたことで、この状況を伝えるニュースが盛り上がり、さらにこの事象が拡散された形だ。

ことの本質は、検察の独立性が脅かされる事態に、国民の怒りが噴出したという形なのだが、個人的には、新型コロナウイルスの感染拡大で自粛をしいられている市民のうっぷんが爆発。安倍政権への批判がここにきて高まったのではないかとみている。

芸能記者としては、これだけの有名タレントが政治的発言をしたことに驚いている。なぜなら、芸能人が政治を語るのはタブーで、そんな怒りを示すと、業界から干されるというのが定説というか、暗黙の了解だったからだ。

あんまりこの手のコラムで具体的な名前は控えたいのだが、俳優の石田純一は15年9月、安全保障関連法廃止を訴えるデモに参加した。有名人ということですぐにアイコンに。このあとどうなったのかというと、本人によると、番組出演がキャンセルされ、広告代理店を通じて「メディアの前で政治的発言をするな」との注意を受けたそうだ。CMがなくなりテレビにも出られない。これが「干される」ということなのだろう。

その後もこの手の炎上事件は相次いだ。映画「空母いぶき」に出演した佐藤浩市は漫画誌のインタビューでの発言で、ウーマンラッシュアワーの村本大輔はM-1で原発問題を扱ったことで、モデルのローラも沖縄・辺野古への米軍基地移設計画に反対署名をしたことで、いわゆるバッシングを受けた。

この状況は俳優やモデルだけでなく、お笑いにも及ぶ。「笑点」の大喜利では、つっこみ所満載の安倍政権批判ネタが炎上。そういえば、政治風刺ネタを得意とするニュースペーパーも、元メンバーらも最近はテレビでは見かけない気がするのは私だけではないだろう。

芸能界での社会風刺は難しいのだろうか。そんなことを考えていた時にあるテレビ番組を見た。

NHK・Eテレのバラエティー「バリパラ」。桜を見る会のパロディーを扱った回だった。これも、いわゆる反安倍政権の番組だとして炎上し、NHKは否定するも、再放送が差し替えられる事態に。そのニュースで初めて同番組を知り、NHKプラスの配信で見た。

随所に安倍政権への風刺が盛り込まれたが、この番組でお笑いコンビ、三拍子のネタを初めてしっかりと見た。お笑いに不勉強で恐縮だが、18年には、お笑い芸人のアンケートで売れてないけど本当は面白い芸人の1位に選ばれていたことを初めて知った。

彼らの早押しクイズは鉄板ネタらしい。ボケの高倉がクイズを出し、久保が見当違いの解答をするものの、高倉が無理やり問題をねじまげて正解にしてしまうネタだ。

桜を見る会問題や森友問題などで起きた安倍政権への批判は、安倍首相を守るために、公文書を書き換えたり、法律の解釈を変更したり、書類をシュレッダーにかけたりするなど、自分たちに都合よく運営しているのではないか、という疑いを背景に起きたとみられる。

三拍子のこの鉄板ネタは、まさに、安倍政権のやり方への風刺。それでも、ネットで激しく炎上することはなかったようだ。

ネタのなかには、

高倉 いや、募ってはいますけど、募集はしていません

久保 安倍首相かお前は 国会で質問されていたでしょう「募ったけど募集はしていません」聞いたことないですか

高倉 聞いたことはあるけど、耳にしたことはない

こんなネタがあるのに、批判はあまり耳にしない。これは、ネタが秀逸だからではないかとも思う。芸が優れていれば、社会風刺を扱っても、批判を浴びるよりも逆に、人びとの印象に強く残ることがある。お笑いの、社会風刺と親和性の高さを再認識させられた。