4人組バンド「クリープハイプ」の尾崎世界観(36)が「新潮」12月号で発表した「母影(おもかげ)」が、「第164回芥川龍之介賞」の候補作品に選出されていたが、20日に行われた選考会で、今回の受賞はならなかった。

尾崎はこのほど、日刊スポーツなどの取材に応じ、「母影」にこめた思いなどを語っていた。今作を書いたのは、コロナ禍で音楽活動も満足にできなくなった昨年のこと。「バンドにとって何ができるかと考えた時に、小説を書くことが身近にありました」。作品が芥川賞の最終候補になり、「今回候補になったことで、歌詞の読まれ方も変わっていくと思いますし、もっと詞を読んでほしいという思いもあります。歌詞に目を向けてもらえるチャンスになるという意味でも、プラスになると思います」と喜んでいた。

尾崎は音楽活動と並行して、16年に初小説「祐介」を発表。「苦汁100%」「苦汁200%」「泣きたくなるほど嬉しい日々に」などの著書を発売するなど、文筆活動も行ってきたが、作家としては自らは「偽物」という。高校を卒業し、一時は製本会社に就職した。

当時は、親にはバンド活動を、バンドメンバーには就職していることを隠していたという。さらに「自分で何かを切り開いていったわけではなくて、会社にいられなくなって、辞めたことでメンバーにも実はと打ち明けたんです。思えば、ずっと逃げ続けてきました。小説などを書くきっかけも、体の不調で声が出なくなったことがきっかけでもあるので、逃げ続けて今があると思っています」という。

それでも「それでしかやれないこともあるし、今回も候補に入って、よく思わない人もいると思いますが、そんな偽物がいることで、すごくおもしろくなると思います。逃げた先で本気でやっていると、逃げる前よりいい状況にもなっていたりするので、そんな生き方も提示していきたいです」。

今後も、音楽活動と執筆活動を並行していく。「ミュージシャンとして頑張りたい気持ちがあります。でもすごく書くことが好きなので、ずっと書き続けていきたいです」と話しており、今後の活動からも目が離せなくなりそうだ。【大友陽平】