深川栄洋監督(46)が妻で女優・書家の宮澤美保(48)とともに作り上げた、私小説的な自主映画「42-50 火光(かぎろい)」初日舞台あいさつが7日、東京・ヒューマントラストシネマ有楽町で開かれた。

同監督は、製作の大きなきっかけが、映画にも出演した加賀まりこ(78)から「どんなことしても、妻の味方にならなきゃダメよ」と言われた言葉だったと明かした。

深川監督は、11年の「白夜行」と「神様のカルテ」、14年「神様のカルテ2」、20年「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」で知られる人気監督だ。そんな同監督がキャリアを始め、20~27歳の頃に取り組んでいた自主映画への原点回帰の思いを込めて、19年から作り始めた2つの異なる自主映画映画作品を「sideA」「sideB」と称して連続して公開する取り組み「=return to mYselFプロジェクト」を立ち上げた。「42-50 火光(かぎろい)」は、その「sideA」として発表した。

深川監督は「(東京)オリンピックをやっていた時期に2週間、撮影しました。久しぶりのオリジナル映画、自主映画を作りたいと思ったところから始まった」と企画の経緯を語った。その上で「(自主映画をやっていて)お客さんが喜んでくれたのは、自分の身の回りにあったこと、体験し、経験したこと、感じていることを描いた時、評判が良かった。自分が結婚して3年くらいにあったことを、私小説のように映画にしたら、お客さんには響くのかなと思って作った」と語った。

劇中で女優の佳奈を演じた宮沢は、夫の深川監督から台本を読ませてもらった時「お願いだから、これはやりたくありませんと思いました」と率直な思いを語った。その上で「あまりにも、自分たちのこと過ぎて、こんなことを、世の中の人のお伝えしていいんだろうか?」とも語った。

映画は、子どもの頃は売れていた42歳の女優・佳奈と脚本家の50歳の夫・祐司というミドル世代に差し掛かった夫婦が、不妊治療のストレス、難病で死に向かう父、問題を複雑化させる姉妹、わがままをこじらせる親たちなど、切実な問題に葛藤する姿をユーモアを交えて描いたヒューマン・ドラマだ。

深川監督は40歳で宮澤と結婚し、加賀に紹介した際に「どんなことしても、妻の味方にならなきゃダメよ」と言われ、その言葉が心に残っていたと振り返った。同監督は「加賀さんに『紹介しなさい』と言われて行ったら、天海祐希さんと内田有紀ちゃんがいて、食事した。その時、言われた言葉が、ささいなケンカをしても、自分の頭の中の指針となった。覚えています? と言ってオファーした」と語った。

その上で、深川監督は「そうだ。今から15、16年前も『役者は長く売れないと、根性がねじ曲がるのよ』と言われた」と、加賀から言われた、別の印象的な言葉も明かした。その上で「結婚生活の中で(妻が)何でそんなことを言うのかと考えた時、心が静まる」とも語った。宮澤から、すかさず「私が、ねじ曲がってるということでしょうか?」と突っ込まれると「役者あるあるって、あるんだなと思うと、潤滑油になって関係が良くなると…」と穏やかな口調で返し、笑みを浮かべた。

加賀は「深川さんに『奥さんのことを守れるのは、あなただからね』と言った、せりふが台本に書いてあると(出演を)口説かれた。これは責任、取らなきゃいけないと思って」とオファーを受けた当時を振り返った。その上で「何かの会話で言ったらしいけど、無責任に言ったので覚えていないんですけど…彼は覚えていて。なので、本を読んだ時はこんなふうに、かじ切っちゃって大丈夫なの? あまりに私小説な感じがして。見た方が、わぁ素敵、この夫婦となるか、吐き気がするか、どっちかだよねと思った」と評した。そして「美保さんは、よくやったと。監督は褒めないけど、あなたは良かった」と宮澤たたえた。

この日は、劇中で深川監督をモチーフにした夫の祐司を演じた桂憲一(55)も登壇。同監督に推薦したという宮澤は「19年前に舞台をやって、連絡は取っていなかったんですけど、監督に雰囲気が似ていると思っていた。演技がお上手なのは分かっていた」と説明。桂は「最初は、からかっているじゃないけど、本当かな? と思った。台本を読んで、ぜひやらせていただけないかと…よく思い出してくれた」と感謝していた。