10月上旬をすぎたばかりだが、今年もいよいよ終わりだ。というのも、10日の仕事が俳優鈴鹿央士(22)の来年のカレンダー発売記念イベントと、東京オペラシティでクラシック・キャラバン2022「華麗なるガラ・コンサート」だったからだ。

「ガラ・コンサート」の最後は迫田美帆、清水華澄、笛田博昭、須藤慎吾といった日本を代表するオペラ歌手に藤原歌劇団合唱部、二期会合唱団が加わったベートーベン「交響曲 第9番 ニ短調」だった。毎年暮れにシラーの歌詞で流れてくる「歓喜の歌」だ。

そんな感じで、会社に電話しても「今年もお世話になりました」。コンサート会場で顔を合わせた人とは「来年もよろしく」としみじみしてしまった。

しみじみしてしまたのは、他にも理由がある。1日に79歳で亡くなったアントニオ猪木さんの献杯に行ってきたからだ。亡くなって10日で半分の5日は献杯しているのだが、7日に猪木さんの行きつけだった、東京・麻布十番の焼き肉「一番館」に行って、猪木さんの思い出話をしながら献杯した。

記者も20年以上通っているから、そんなに高い店ではない。猪木さんは米国ロスに住んでいる時に、帰国する度に顔を出したという。

1989年(平元)~90年に文化社会部社会班担当としてアントニオ猪木参議院議員番記者、2010年(平22)~13年にスポーツ部格闘技担当としてプロレスリングIGFのアントニオ猪木会長番記者をやらせていただいた。取材対象からののしられ、さげすまれて塩をかけられそうになる事も多い芸能担当が長い記者生活で、子供の頃から憧れていた”燃える闘魂”と直に接して声を聞くことが出来る”猪木番”は至福の時だった。

そしてIGFの打ち上げが「一番館」で行われ、猪木会長も来ていることを知った。ホルモンをかみ切れずにいた記者に「飲め!」とアドバイスをくれた猪木さんの笑顔が忘れられない。それからは焼き肉を食べに行く度に、店の人に猪木さんの話を聞いた。

一昨年の11月に古舘伊知郎さん(67)が猪木さんとYouTubeでコラボすることが決定した時は”独占取材”が許されたのだが、猪木さんが入院して流れた。その後、「一番館」に後輩を連れて焼き肉を食べに行って「猪木さん、どうしてるんですかね?」と聞いてみると、マスターが「青森の恐山に行って療養しているよ」というのを、半信半疑で聞いていたら古舘さんが恐山まで行ってコラボしていた(笑い)。

猪木さんは、昨年4月が「一番館」に来た最後になったという。猪木さんが好きだったホルモンを焼いて食べ、マッコリで献杯した。そして、いつもは注文しない豚足にかじりついた。これこそが、アントニオ猪木の大好物。病床にあっても取り寄せていた。マダムが「亡くなる前の週の水曜日に届けたのが最後」としんみりしながら出してくれた。

還暦をすぎた人生と記者生活に彩りを与えてくれたアントニオ猪木を思いながら飲んだ酒は非常にうまかった。翌日は夕方まで起き上がれないほど杯が進んだ(笑い)。【小谷野俊哉】