ジャズと出会って10年目を迎えた。
仙台が生んだジャズ界の若き才媛・秩父英里は、独自の世界観で世界的に注目を集め、将来のグラミー賞候補の呼び声が高い。今は仙台で自身のプロジェクトでの活動をはじめ、ビッグバンドやゲーム、演劇、先進7カ国首脳会議(G7)といった地元イベントなど、各メディアへの音楽提供、アートや多領域とのコラボなどジャンルを問わない活動を行っている。秩父の独自の世界観はどうやって生まれるのか、目指す将来像などについて聞いた。【取材・構成 浦部歩】
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“自然体”という言葉がぴったりな人だ。秩父は東北大3年の13年春、ジャズ研究会に入部。東北大卒業後の16年9月、米国・ボストンにあるバークリー音楽大学に留学。ジャズ作曲学科と映画音楽学科で学び、19年12月に同大を首席で卒業。20年に東日本大震災、ボストン留学を経た自身の人生の航海をテーマに作曲した「The Sea-Seven Years Voyage」で若手ジャズ作曲家に贈られる「ISJAC/USF オーウェン賞」を日本人で初めて受賞。さらに19、20年、「ASCAP ハーブアルパート・ヤングジャズ作曲家賞」を2年連続受賞するなどして、一躍その名を知られるようになった。「ジャズの本場のアメリカで自分が書いたものがどう評価されるのだろうという感じでしたが、実際に音を聴いて評価していただき、今までにないような経験で、うれしいような不思議な気持ちだった」と受賞を振り返った。
本来ならボストンを拠点に活動しているはずだったが、コロナ禍が秩父の運命を変えた。20年3月に急きょ帰国。「当初は短期で戻ってくるつもりでした」。だが、なかなか渡米のタイミングがつかめず、地元仙台を拠点に活動すること3年…。今は、NEXCO東日本東北支社などのCMの作曲をはじめ、4~6月に行われた全国都市緑化仙台フェア「未来の杜2023」のテーマソング、4月に開校した大河原産高の校歌の作曲など、その活躍は多岐にわたる。「仙台にこんなにかかわることもボストンに行く前は今までなかった。コロナで地元に戻ってきて、仙台に仕事でかかわって、仙台のことを知る機会も増えました」と町と自然が融合した大好きな地元の新たな魅力に触れている。
作曲は体験や思考からヒントを得ている。「制作期間がある場合は、曲のコンセプト決めに時間をかけるタイプ。この前、お仕事させていただいた全国都市緑化仙台フェアの場合は、会場や公園、園芸センターに行き、花や草木、場所を実際に見ました。でも、その時はただ訪れるだけ。そうした体験が積み重なって、頭の中で(曲のイメージが)湧いて、ある時、表に出てくるという感じ」。
31日には今年で54回目を迎えるビッグバンドの甲子園とも称される「ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテスト」(東京・北とぴあさくらホール)に総勢10人のラージバンドを率いてゲスト出演する。「歴史のある大会。呼んでいただけることは光栄ですし、恐れ多いこと」と謙遜するが、今年も複数の大学から編曲のオファーがあったという。
目指す理想像は何か聞いてみた。「作曲家としてカラーのある、名前で声をかけてもらえるような人でありたい。例えば、映画でも歌でも〇〇さんのサウンドがいいなと思って依頼する、ということがあると思います。『アーティストとしての作曲家』といいますか。ジャンルは問わず、何をやってもこの人に頼んだら楽しいものができあがる、ワクワクしてもらえる音楽家になりたい」と前を見据える。だが、欲張らない。自然体を貫き、縁とタイミング、人と人のつながりを大事にしていくという。「『仙台から世界へ』といったことや自分の現在地はそこまで意識せずに。でも、今いる場所、演奏メンバーとは一体どんな音楽ができるのか、創作したものがどう成長していくのかに興味がある。日本にとどまらずアメリカなど世界を拠点に活動していくことは考えていますが、目の前のことをやりながら、身を任せながら進んでいきたい」。
座右の銘に「健康第一」を挙げた秩父。仙台が生んだ音楽家は、川の流れに身を任せるように自然体で音楽を育み続ける。
インタビューは、仙台育英甲子園準優勝の翌日だった。「準優勝はもちろん、選手たちは心身、エネルギーともに本当にすごい」と感動。秩父は高校受験で仙台育英を受験(合格)しており、気になる存在。「もしご縁があれば、仙台育英野球部さんの応援で流れるチャンステーマの作曲などもやってみたい」と意欲を見せた。
◆秩父英里(ちちぶ・えり)。仙台市出身。作曲家、アレンジャー、ピアニスト、指揮者、バンドリーダー。9歳からエレクトーンを弾き始める。仙台で東日本大震災を体験。仙台二-東北大-バークリー音楽大学。
◆今後の予定 9月10日、NHK仙台「定禅寺ジャズフェスティバル」の特番に出演。9月29日には仙台市太白区文化センター、楽楽楽(ららら)ホールで「秩父英里スペシャルアンサンブル」を開催
◆ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテスト 山野楽器が主催し、今年で第54回目を迎えるビッグバンド・ジャズイベント。30、31日、東京・北とぴあさくらホールで開催。延べ4万人の学生プレイヤーが出場し、多くのプロミュージシャンを輩出。今年は28のバンドが出場予定。
◆ビッグバンドとは 大人数編成によるアンサンブル形態のバンド。一般的なビッグバンドは、サックス、トランペット、トロンボーン、リズム(ドラム、ベース、鍵盤楽器など)の各セクションに分けられる。



