病気療養で１月から舞台を休演した歌舞伎俳優中村勘三郎（５６）が２９日、都内で行われた平成中村座公演（１１月～来年５月、東京・浅草）の会見に出席した。１０カ月ぶりの会見で勘三郎は「舞台に立ってるだけで幸せ。お客さまの拍手が力になる」と以前同様に歯切れのいい口調で話し、療養中にミュージシャン桑田佳祐（５５）から「直筆の手紙をもらいうれしかった。励ましになった」と明かした。

　完全復活だった。昨年１２月から耳鳴りがし「特発性両側性感音難聴」と診断され、体調が不安定で初めて７カ月も療養した。７月２３日の舞踊公演復帰を経て、１０カ月ぶりの会見に「昨日は会見が悪夢みたいなもので緊張した。でも、やってみると、思ったほど緊張しなかった」と笑顔を見せ、片岡仁左衛門と共演する１１月の平成中村座公演の会見は勘三郎独演会になった。

　「入院中にいろいろなことがあった。孫が生まれ、震災もあった。忘れられない１年になった」と振り返り、「７月の舞踊公演でお客さまの拍手が力をくれることを痛感した。お客さまの存在が薬だね」。大きな励ましもあった。退院直後の３月、昨年に食道がんを克服し復帰した桑田佳祐から直筆の手紙をもらった。「会ったことは１度もないけど、力を頂いた。ファンと書いてあり、不肖の同級生とも書いてあった。僕も返事を出して、誇れる同級生へと書きました」。

　勘三郎は昼の部「お祭り」の鳶頭、夜の部「沼津」の平作で出演するが「元気なら３つも４つも出るけど、まだ体がね」。１８年前に大病した仁左衛門が「中村屋（勘三郎の屋号）が復帰するうれしさで胸がいっぱい。舞台の成功が彼に元気を与える」とエールを送ると、勘三郎は「仁左衛門の兄貴をはじめ、中村座出演者はＯ型が多い。これが本当のＯ型（おーがた）歌舞伎」と駄じゃれも飛んだ。

　長期療養で復帰を危ぶむ声もあった。勘三郎も「不安はあった。でも、まだ引退したくないしね。楽しいことは何もなかった。息子の舞台も見たけど、人のことはどうでもいいもの」。９月の大阪・新歌舞伎座が本格復帰となり、来年５月まで続く平成中村座公演は１２月、来年１、３月に出演する。「まず１カ月務まればいい。医師に『元に戻ろうと思わない方がいい』と言われており、舞台に立てるだけで幸せ」と話した。【林尚之】