岩手県滝沢市で5月に行われたAKB48の全国握手会イベントで、メンバーの川栄李奈(19)入山杏奈(18)らを刃物で襲いけがをさせたとして、傷害、銃刀法違反の罪に問われた青森県十和田市の無職梅田悟被告(24)の初公判が4日、盛岡地裁で行われ、同被告は起訴事実を認めた。仕事を解雇され、アイドルとして成功しているメンバーとの境遇の差に不満を覚えたという、身勝手な犯行動機が明らかになった。次回公判は12月1日に行われる。

 梅田被告は、上下黒のスエット姿で入廷した。肌着の白いTシャツをだらしなく出し、スポーツ刈りの髪は伸び放題になっていた。入廷すると、傍聴席を見渡してニヤニヤするなど、法廷に異様な空気が漂った。

 検察側によると、梅田被告は事件当日、握手会に臨んでいた川栄と入山の列に並び、折り畳み式のこぎりで手前にいた川栄を襲撃。川栄がしゃがみ込むと、入山を襲った。頭を守ろうとした2人の手を切るなど、残忍な手口だった。

 2人への犯行について「そうっすね」と、甲高い早口で認めた。一方、2人を守ろうとした警備スタッフ男性については「けがをさせてません」と、1度は否認した。しかし、起訴事実を争わない弁護側との間に食い違いが生じたため、開廷わずか7分で休廷。再開後、同被告は男性にもけがをさせたことも認めた。

 検察側は冒頭陳述で、梅田被告は勤務していた警備会社を1月に解雇され、再就職も失敗した経緯を説明。「仕事も収入もない中、テレビでAKB48を見て『多額の収入があるAKBは、収入も職もない、つまらない自分と正反対』と思った。不満を解消しようと犯行に及んだ」と指摘した。

 犯行に至るまでの準備も用意周到だった。3月ごろインターネットで、5月にAKB48が岩手で握手会を行うことを知ると、握手券付きCDを2枚購入。カッターナイフの刃を装着して威力を増したのこぎりは、段ボールを使って切れ味をテストしていた。

 青森県十和田市の自宅からバスや電車を乗り継いで、事件当日の同25日に会場へ到着。2枚持っていた握手券のうち1枚をレーンの下見として使用。その後「短い列(のレーン)ならすぐ犯行に及べる」という理由で、川栄と入山がいた列が短いレーンを選ぶなど、計画的な犯行の様子が明らかにされた。

 法廷前には、ゲート型の金属探知機が設置された。地裁の職員は「万が一、(被告が)報復される可能性も否定できない」と説明した。傍聴席でも複数の警察官が警備に入るなど、ものものしい雰囲気だった。

 梅田被告の精神鑑定結果も証拠として提出されたが、「刑事責任を問える能力の欠如はみられなかった」(検察側)。次回公判では、被告人質問などが予定されている。【森本隆】

 ◆AKB48襲撃事件

 5月25日に岩手県滝沢市で行われた握手会で、川栄と入山が、のこぎりを持った梅田被告に握手レーンで襲われた。手の骨折などの重傷を負い、盛岡市内の病院で手術を受けた。止めに入った男性スタッフを含む3人も負傷し、入院。同被告は殺人未遂容疑で現行犯逮捕された。川栄と入山は翌26日に退院して帰京。同被告は取り調べに「AKBなら誰でもよかった。2人の名前は知らない」と供述。責任能力を調べる鑑定留置が、6月6日から9月2日まで行われた。