体力測定で大粒の汗を流す大盛(2019年1月20日撮影)
体力測定で大粒の汗を流す大盛(2019年1月20日撮影)

社会人野球に行けなかったのに、プロ入りした選手がいる。広島の育成1位、大盛穂(みのる)外野手(22=静岡産大)のことだ。プロを戦力外になって社会人入りするケースはよくあるが、逆は聞いたことがない。

大学3年から、企業チームのセレクションを兼ねた練習会参加を重ねたが「うちに来てくれ」という声はかからなかった。周りの大学生は3日連続で参加しているのに、自分だけ2日で帰される。東芝、西濃運輸、ヤマハ、東海理化、日本製紙石巻…。企業チームどころか、クラブチームからもNOを突きつけられたという。

「絶望のどん底でした。独立リーグで2年やって、ダメなら野球をやめなければならないと思った」。周囲の勧めでプロ志望届を提出していたことが幸いした。担当スカウトの顔も知らなかった広島から、予想外の指名を受けた。

広島に指名された8選手のうち、育成は大盛だけ。それでも「野球ができるだけで幸せ」と話す。一方で「取材を受けるときは立場が一番下なことを思い知らされて悔しい」とも言う。

面白いのは、そんな大盛が新人体力測定で1位になったことだ。線が細く見えるが、太もものパワー、ジャンプ力、反応スピード、持久力の総合点が8選手中トップだった。相当に質のいい肉体なのだろう。

「育成のカープ」で、大盛は花を咲かせられるだろうか。「今年中に何としても支配下登録されたい」と鼻息は荒い。強いチームで目立つのは至難のわざだが、失うものは何もないということか。

体力測定だけでなく、本業の野球でも活躍できれば、これほど痛快なストーリーはない。俊足、強肩、巧打の外野手。大盛が一番下から成り上がる姿を見てみたい。【広島担当 村野森】

色紙を両手に持って笑顔を見せる育成ドラフト1位大盛(2018年1月6日撮影)
色紙を両手に持って笑顔を見せる育成ドラフト1位大盛(2018年1月6日撮影)