原のタクトで王手だ。巨人が、延長サヨナラ勝ちで阪神を下し、クライマックスシリーズ(CS)ファーストステージ突破にあと1勝とした。10回1死満塁で、代打の高橋由伸外野手兼任コーチ(40)が押し出し四球を選んだ。結末に至る過程には、攻めと待ちを巧みに使い分ける原辰徳監督(57)の采配が詰まっていた。今季限りで退任する可能性のある名将が、手腕をフルに発揮した。
不惑の兼任コーチが無邪気にバットを掲げた。「どうしたらいいか、分からなくって。自分で片付けるのもあれなんで…」。相棒を持ったまま、ゆっくり一塁へ向かった。2勝勝ち抜けの超短期決戦。単なる1勝とは重みが違う。サヨナラ押し出しでも何でもいい。お立ち台に上がった高橋由は「結果がすべて。今日負ければ崖っぷち。大きい。ヤクルトに挑戦したい」と、珍しく高ぶっていた。
延長10回1死満塁。ネクストで待機していたアンダーソンの後ろから、満を持して登場した。原監督は「塁が詰まったら由伸。切り札を」と決めていた。本人も「そのつもり」と、長年培ったあ・うんの呼吸だった。初球を豪快に空振りした。「力が入っていた。追い込まれるとキツい」と冷静になれた。フルカウントからの内角を「自信を持って見送った」。阪神高宮との神経戦を制した。
高橋由は、打席での駆け引きを制した。ゲーム終盤の駆け引きを制し、幕切れを演出したのは原監督だった。後攻の強みをフルに生かし、重圧をかけ続けた。
10回無死一塁、打者は4番の阿部。阪神はサウスポー高宮を当てた。1点奪えば終わる。定石に思える送りバントの選択肢は「なかったよ」と攻めの姿勢を前面に出し、高宮にプレッシャーをかけた。案の定コントロールを乱し、四球で塁を埋めていった。
9回1死一塁でも“動かない一手”を打っていた。足のジョーカー鈴木がベンチを飛び出さんばかりに控えていた。しかし延長の決着をイメージし、代走を送らなかった。持ち駒を簡単に打たず、相手の余力を絞り出していく。後攻めだからこそ、の采配だった。
動かない迫力。「用兵の妙」とホーム戦の哲学を明かした。
原監督 後攻は、ゲームが見えた状態で戦える利がある。(得点の)ターゲット、目標を定めて戦いやすい。特に延長戦は、間違いなく有利になる。例えば鈴木を残して、次のチャンスをうかがうことができる。
監督生活12年。勝負の見極めを誤るわけがない。磨き上げてきた手腕で、集大成のポストシーズンを滑り出した。【宮下敬至】
▼巨人は代打高橋由が押し出し四球を選びサヨナラ勝ち。プレーオフ、CSのサヨナラ勝ちは14年ファイナルS第1戦のソフトバンク以来9度目。日本シリーズのサヨナラ勝ちは過去35度あるが、決着の内訳は本塁打を含む安打33度、犠飛1度、失策1度。これまでプレーオフ、CSはすべて安打によるサヨナラで、「サヨナラ押し出し」は日本シリーズを含めたポストシーズン史上初めてだ。
▼高橋由は40歳6カ月。ポストシーズンで40代選手の勝利打点は12年日本シリーズの稲葉(日本ハム)以来7人、8度目となり、巨人では初めて。最年長勝利打点は11年CSの宮本(ヤクルト)で40歳11カ月だが、サヨナラでは92年日本シリーズ第1戦で代打満塁サヨナラ本塁打を放った杉浦(ヤクルト)の40歳4カ月を抜いて最年長となった。
▼3試合制のプレーオフ、CSでは昨年まで第1戦に勝って王手をかけた19チームのうち17チームが1Sを突破。突破確率は89%で、巨人は10年阪神戦で第1戦○→第2戦○と連勝でファイナルSに進出している。



