阪神元監督で日刊スポーツ評論家の真弓明信氏(67)が好評企画「解体新書」で阪神近本光司外野手(26)の打撃フォームを分析した。今季は開幕当初の不振から脱却し、ルーキーイヤーを上回る打率2割9分3厘の成績を残した。真弓氏は始動の際のグリップ位置と右膝の使い方を高く評価。生え抜き選手では、81年藤田平以来の打率3割5分を期待した。【取材・構成=田口真一郎】

今年は開幕当初に調子が悪く、打率が1割いくかいかないかの時があった。2年目のシーズンで大変だなと周囲から言われていたが、打撃フォーム自体をみれば、それほど悪くはなかった。最終的に3割近くの成績を残したので、バッティング自体の力をもっているということだ。

始動から見てみよう。近本の特長は、グリップの位置にある。調子の悪い選手はこの位置が下がったり、体の近くに入ってしまうケースが多い。上体に力が入ってしまう際によく見られる。しかし彼の場合は、グリップが肩のラインよりも少し上がり気味だ。投手から見れば、顔で隠れることなく、グリップが出ている。これは無駄な力が入っていないことを表す。バットがスムーズに出やすい位置にある。肩のラインよりも下がってしまうと、腕力で振ろうとして、バットが出にくくなる。近本は非常にいい位置にあると思う。

もう1つ、彼が素晴らしいのは、下半身の使い方だ。打ちにいく時に、左バッターは軸足の左足に体重を残し、移動しながら、ボールをつかまえにいく。これはいいな、と思うのが、右膝だ。足が地面に着地した時に、ついた膝が逃げていない。右膝を開いて腰を回そうとすると、体が開いてしまう。そうなると外角球にバットが届かなくなる。逃げていくボールに弱かったりもする。近本の場合は、写真<5><6><7><8>でバットを振っていくが、ほとんど膝が逃げていない。左足を押し出すように、腰を回していくが、右膝が開かないので、この写真のように、タイミングを少しズラされても、下半身の粘りでボールをとらえられている。よく分かるのが<10><11>で、打った後の右膝が伸びない。粘ってボールをとらえにいった跡が残っている。これがシーズンを通し、3割を打てるバッターの特長だ。

右膝がいわゆる「壁」になり、体が開かずに速いボールに対応できる。遅いボールでタイミングを外されても、この膝が柔軟に動くことでボールを拾いにいける。右膝の使い方が非常にうまい選手だ。

開幕時の不調については、あくまで推測ではあるが、体の上下のバランスに狂いがあったのではないか。オフの間のトレーニングで、上体に力がついてくると、打撃では上体が勝ち過ぎて、下半身が動かなくなり、バランスが崩れることがある。そこから抜け出していくのに、時間がかかったのではないか。ただそこから、いい方向に持っていけたというのは、経験として残る。調子が悪い時に、すぐに直すことのできる「引き出し」になるはずだ。

打撃フォームは、完成の域にある。当てる打撃をすれば打率が上がると思うかも知れないが、あまり上がってこないことがある。バットは強く振れるほうがいい。長打力もあるし、今のように上体に頼らず、下半身をしっかりと使えば、打球はさらに飛ぶようになる。長打も増えるし、打率も上がってくる。今年の経験を生かして調子の悪い時期をなるべく短くして、好調をキープすることができれば、打率3割5分は夢ではない。

▼規定打席到達者でシーズン3割5分以上打ったのは、今季の吉田正尚(オリックス=3割5分)まで、1リーグ時代含めのべ59回ある。阪神では1リーグ時代はおらず、2リーグ分立後に6人(7回)が記録。そのうち球団生え抜きは3人で近本が3割5分以上打てば生え抜きでは81年藤田平以来となる。