<イースタンリーグ:巨人2-1西武>◇9日◇カーミニーク

捕手として通算出場試合1527、コーチとして4球団で計21年間(うち1年間は編成担当)の田村藤夫氏(61)が、西武のプロ3年目大型右腕・渡辺勇太朗投手(20=浦和学院)のピッチングに迫った。

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誰でも分かっていることでも、繰り返し繰り返し言葉に出して伝えることで、選手の意識というのは少しずつ変わっていく。この日の右腕・渡辺のピッチングを見ていて強く感じるのは、右打者の内角にまるで投げないことだった。

少ないのではなく、1球もない。ただ、私には初見の渡辺が技術的に右打者の内角に投げきる制球がないからか、捕手のリードによるものか、判断はつかない。仮に捕手のリードだとしたら、首を振ってでも内角を投げなければと感じた。技術的な課題があるなら投げて覚えるしかない。

最速は148キロ。191センチのサイズで上から投げ下ろすストレートには力があった。6回を投げて5安打2失点。5安打のうち3本は内野のまずい守備で内野安打になったもので、実質的には2安打と言える。

5回表、立岡のショート正面へのゴロを山村が待って捕球して内野安打。1死から石川に対して初球は抜けたカーブでファウル、2球目、外を狙ったカーブが甘く入り2ラン。

結果を見た時、内野の守備を考慮すれば、6回を2安打2失点となるが、よくよく中身を見ていくと、渡辺がしっかり向き合うべきテーマが見えてくる。右打者への内角だ。先述したように、技術的な問題ならば、シンプルに練習で体に染み込ませる、配球によるなら、サインに首を振ってでも内角を攻めなければ。

なぜ私が、右投手の対右打者の内角にこだわるかと言えば、1軍で勝てるローテーション右腕は、ほぼ全員が右打者の内角をしっかり投げきる。例えばロッテ石川のピッチングを見れば良く分かる。

ではなぜ右打者の内角なのか。それは左投手が左打者の内角を苦手にする投手が比較的多いように、右投手が右打者の内角への制球に苦しむケースは、プロのレベルでも珍しくない。それを練習で克服した投手が1軍で勝てるようになる。

新人からローテーションを守った西崎も、最初はストレートがいわゆる「まっスラ」のように若干スライダー回転していたため、右打者の内角を突くボールが甘く入ることがあった。本人も問題意識高く練習して、すぐにきれいな回転で右打者の内角を攻めるようになった。

特に渡辺のようにカットボールを勝負球とする投手は、この問題意識をより強く持つべきだと思う。バッターにとって、内角を攻めない投手は怖くない。これも誰もが知ることだが、内角を投げないと分かれば、右打者はどんどん踏み込んでくる。そうなれば得意のカットボールも対応されてしまう。苦しくなるのは渡辺自身だ。

具体的に言うなら、内角を攻めるなら、ボールでもストライクでも構わない。ただ、ボール球にするならばベルト付近の高さを念頭に、腰を引かすことを意識してしっかり制球しなければならない。胸より上はコントロールミスすると頭付近に行く可能性があるから、考えなくていい。

また、内角ストレートでカウントを取るケースはあまりないが、仮にストライクを取る状況ならば、低めを意識して投げることだ。高めは捉えられた時、長打になる確率が高くなる。

右投手の対右打者の内角攻め。これをマスターするにはシンプルに投げるしかない。私はコーチ時代、ブルペンで外国人投手が投げる際よく右打席に立った。その時、左手にミットをはめた。実際に当たりそうになり、捕球して「しっかり投げろ」と言いながら投げ返したことが何度もあった。また、以前は人形を置いて練習したこともあったが、人形を直撃したボールが跳ね返り、捕手の手や足にあたり危ないため、この練習はやらなくなった。

内角を投げるためには高い意識を持ってブルペンで投げ、そして実戦で何度も試すことだ。ストレートで右打者の体を起こす、腰を引かす、そういう厳しいボールを自分のものにすれば、渡辺の球威とカットの質ならば、ピッチングの幅は広がる。

右投手の右打者内角への制球。高校生もよく理解している基本的なことだが、その重要性は決して侮れない。まだ自分のものにできていない若い投手こそ、そこから目を背けず、常に意識して、日々の練習から少しずつレベルアップしてほしい。(日刊スポーツ評論家)