5月14日に札幌で行われたプロボクシング興行で、出場したナイジェリア人2選手が、日本ボクシングコミッション(JBC)に申請、承認された選手とは別人の“替え玉”だった問題で30日、JBCは都内で実行委員会を開き、2選手が日本国内に在留しているプロボクサーライセンスも所持していない“素人”だったことを発表し、興行をプロモートした元WBA世界スーパーライト級王者で平仲ボクシングスクール(BS)ジムの平仲信明会長が謝罪した。
ボクシング界での替え玉事件は、過去に世界タイトルマッチでも起きていた。韓国では大統領までだましたと世論の批判が巻き起こり、警察まで動く大事件になった。
前代未聞の一戦は1984年9月7日、韓国・井州で行われたIBF世界フライ級タイトルマッチ。王者の権順天(韓国)が、同級8位“アルベルト・カストロ”(コロンビア)に12回KO勝ちして4度目の防衛に成功した。
ところが4日後の9月11日、コロンビアの首都ボゴタの地元紙が「韓国で世界挑戦したカストロは偽者だった」と報じたことで大騒ぎになった。事実、本物のカストロは隣国パナマで合宿中だった。
実は“偽者”挑戦者のパスポートに記されていた名前は「ホアキン・カラバロ・フローレス・ペドロ」だった。この点について試合前に韓国コミッションがマネジャーと本人に確認したところ「カストロはリングネーム」と主張したため追求しなかったという。
コロンビアでニュースが報じられた時、挑戦者一行はまだ韓国滞在中だったため、韓国ボクシングコミッション(KBC)が直接事情を聴取。挑戦者のフローレスは「わけも分からず飛行機に乗せられ、カストロの名前で押し通すように言われた」と“替え玉”を認めた。
KBCは13日、この世界戦をプロモートした“韓国ボクシング界のドン”と言われた全浩然プロモーターのライセンスの永久剥奪処分を発表。騒動の責任を取って梁正圭コミッショナーも辞任した。しかし、事態はそれだけでは収まらなかった。
当時、韓国でボクシング人気は高く、世界タイトル戦で勝利を収めると、大統領から祝電が届いていた。権も勝利後に全斗煥大統領から祝電が届いていたため、大統領まで欺いた大事件として国内で大騒ぎになった。事態を重くみた警察当局も「詐欺行為で入場料やテレビ放映権料をだまし取った」として動き、フローレス本人とマネジャーのマルマンド・トーレス氏のほかトレーナーとメキシコ人プロモーターの4人と、全プロモーターを詐欺容疑で逮捕。“被害者”とも言える王者の権にも批判が殺到した。
関係者らの供述ではメキシコ人プロモーターが9000ドルの報酬で、カストロを挑戦者として韓国に連れてくる契約だったが、カストロ側が報酬が安すぎることを理由に拒否。そこで無名のフローレスをカストロの替え玉に仕立てて、ライセンスも偽造したという。
当時、IBFは前年83年に設立したばかりの新興団体で、世界的にもまだ認知度は低かった。日本は加盟しなかったが、韓国はすぐに加盟して6人のIBF世界王者が誕生していた。


