新型コロナウイルスの感染防止のため無観客開催という、歴史的な場所が厳戒態勢の中、始まった。会場や周辺の動きを追った。

◇入館 今場所最初の取組に臨む序ノ口力士が午前7時40分に場所入り。同じ部屋の行司と2人で協会の感染防止策としてタクシー移動。「いつも電車で1時間が今日は30分でした」。

◇開門 報道陣専用の東門が同8時3分に開門。消毒液で手を洗浄後、センサー式検温器を額にあてられ検温。入館不可の37度5分以上の対象者はおらず、34度台の計測も続出し検温に時間がかかる。

◇取組開始 同8時33分に相撲錬成歌が館内に流れる中、呼び出しらが最終準備。5人の審判も西花道に控える。同40分に柝(き)が入り拍子木の音が静寂の館内に鳴り響く。審判も着座し呼び出しが東西の力士を呼び上げ取組開始。

◇館内 通常なら30人ほどが入っている観客席(満席で約7000人)に観客は当然なし。3階観客席で立会人の親方2人、報道陣40人ほどが見守る。力士はもちろん審判、行司、呼び出しの土俵進行関係者はマスクなしで粛々と進行。

◇入室不可 9時8分、大阪市天王寺区の宮城野部屋に横綱白鵬が入る。場所前の稽古取材は記者1人、カメラマン1人が師匠の了解があれば代表取材できたが入室不可。稽古を終え約3時間後に出てきた白鵬は「頑張るだけだね。(無観客は)やってみないと分からないけどね」。

◇切なる思い 大関とりの関脇朝乃山は稽古後の9時40分ごろ代表取材に応じ「1人もコロナ(感染者)が出てほしくない。みんな無事にいい成績で終われるように」と願いを込めた。

◇初場内説明 同10時5分、序二段の高倉山-若鳥海戦で初の物言い。取り直し後の相撲も物言いがつき行司差し違え。協議の結果を伝える片男波親方(元関脇玉春日)の「ただ今の協議について説明します…」という2回の場内アナウンスが無観客の場内に響く。土俵上で協議する審判の声は3階席の報道陣にも聞こえるが言葉は聞き取れず。

◇のぼりなし 場所開催の風物詩の一つでもある、力士のしこ名や部屋名が記された幟(のぼり)の掲出は会場になし。10時40分には閉ざされた正面玄関の門外に、若手呼び出しが相撲字で書かれた初日の幕内取組表を張り出す。協会関係者の入退場口となる裏口駐車場前では、協会関係者らが複数人で警備。

◇一番乗り 午後0時1分、再十両の明瀬山が場所入り。70人の関取衆で一番乗りだった。場所入りだけでも一目、見ようというファンらしき人はおらず、いても警備員が注意喚起。出入り口では入場する力士、親方衆らが除菌スプレーで手を入念に消毒。

◇柝が入る 時間通り同2時5分に十両の土俵入り。普段なら館内の半分以上は埋まる時間帯だが、もちろん無観客。拍子木の音が静寂の館内に、いつになく高い反響をもって鳴り響く。

◇役者登場 続々と幕内関取衆が場所入り。同1時27分には朝乃山が、同2時過ぎに鶴竜、同20分には白鵬が同乗する付け人とともに車から降り場所入り。

◇土俵入り 同3時5分からNHK総合の大相撲中継が始まる。十両の取組数番を経て、予定より10分早く同3時20分から幕内土俵入り。人気力士の名が続々と呼び上げられるが、当然ながら拍手も歓声もなく拍子木の乾いた音だけが館内に響く。

◇新鮮味 間を置かず横綱土俵入り。横綱がシコを踏む際の観衆の「よいしょ!」のかけ声はない。一方で横綱が土俵中央に進み、仁王立ちする際に行司が発する「しーっ」という声がいつも以上に響く。観衆がいる通常開催では聞こえにくいが、無観客とあり感度よく聞こえる。「静かにしなさい」という意味がある「警蹕(けいひつ)」という所作だ。

◇協会あいさつ 先場所優勝の徳勝龍が土俵に上がっての賜杯返還式、優勝旗返還式を終え、同3時40分に八角理事長(元横綱北勝海)が協会あいさつ。通常は十両最後の取組から3番前に行われ三役以上の力士とともに土俵に上がる。この日は、土俵中央に同理事長1人が立ち、土俵下の東西に幕内力士、向正面側に審判部の親方衆が整列。NHKのテレビカメラがある正面に向かって立った。異例の場所とあり、あいさつも約5分を要した。

◇記念星 4時9分、幕内の初口で新入幕の琴ノ若が、大奄美を寄り切ってうれしい初白星。史上9組目の親子幕内を果たした場所で幸先よく白星発進。

◇続々登場 幕内も後半に入り炎鵬、先場所優勝の徳勝龍、大関とりの朝乃山や38年ぶり1人大関の貴景勝…と人気力士が続々登場も館内は閑散。制限時間いっぱいを観客の歓声によって「耳」で知らされていたファンには違和感も? 

◇無事終了 関脇以上の上位安泰で同5時56分に打ち出し。ミックスゾーンでの取材対応という異様な空気の中、最後に貴景勝が同6時半過ぎに引き揚げ、厳戒場所初日を終えた。