歌手鈴木雅之(63)が、デビュー40周年を迎えている。80年にシャネルズ(のちにラッツ&スター)の一員としてデビュー以降、日本テレビ系連ドラ「ハケンの品格」(水曜午後10時)の主題歌「Motivation」を収録した最新記念アルバム「ALL TIME ROCK’N’ROLL」まで、常に挑戦を続けてきた。「ラブソングの王様」の源には、いつも“遊び心”があった。

★自分の生きざま切り口に

4月に発売した40周年記念アルバムでは、シャネルズのデビュー曲「ランナウェイ」や洋楽カバーなどを、小西康陽(61)ら、ゆかりのアーティストやクリエーターとともに制作。新たに歌声を吹き込んだ。

「自分の40年の生きざまを切り口にしました。現在の鈴木雅之のボーカルを入れることによって、時を超えられるかなと。ずっと愛し続けてくれた人や、奇跡と呼べるようなアーティストとの出会いもあった40年で、今回は好きにやらせてもらおうと」

同時発売のシングル「DADDY!DADDY!DO!feat.鈴木愛理」は、アニメ「かぐや様は告らせたい? 天才たちの恋愛頭脳戦」のオープニング曲。親子以上に年齢の離れた鈴木愛理とのコラボは、ミュージックビデオがYouTubeで約1400万回再生されるなど、新たな顔も見せている。

「60代になってまだまだ挑戦できている自分が誇らしかったし、そこに“遊び心”みたいなものを入れることもできた。日本のみならず海外からもアクセスして楽しんでくれているというパワーも感じてます」

「ハケン-」の主題歌「Motivation」は昨秋から制作が進んでいたが、図らずもモチベーションという、コロナ禍で問われるテーマと重なった。

「そんなつもりではない中で生み出された言葉が、今の状況で勇気を与えられているというのは、音楽の力を感じましたよね」

音楽好きな一家の中で育った。小さい頃から、ラジオから流れるソウルなどに魅せられた。

「父も母も、マイソウルおねーちゃん(歌手の鈴木聖美)もみんな音楽が大好きで、ラジオから流れてくる音楽をキャッチするのが好きな子どもでした。ラジオ関東とかは、コアな番組も多くてね。お小遣いでアナログレコードを買いに行っては、それをかけながら本人になりきって歌って。それが遊びでした」

★「バラード丁寧に」テーマ

幼なじみらとグループを結成した当時は、メンバーは別の仕事をしながら活動していた。音楽での“遊び心”は、当時からあったという。

「アマチュアは自分に酔いしれて歌うけど、人を酔わせるのがプロ。でも当時はプロになりたいというのはなかったし、アマチュアリズムみたいなものが自分たちを形成していて、それが武器だった。好きなようにやって、責任もない。アマほど楽しいものはない(笑い)。もちろん、デビューしてからいろいろな反応をいただいて、聞いた方の人生をも変えてしまうくらいのパワーが作品にはあるんだと、プロ意識は持つようになったけれど、本来の音楽を作るという部分ではアマチュアリズムは大事にしたいと、今でも持ち続けてます」

86年にソロデビュー後は、「ラブソングの王様」として確固たる地位を築いてきた。

「バラードを丁寧に歌えるボーカリストになりたいという気持ちは、自分の中のテーマとして掲げてきました。時代によって、恋愛模様も、音楽的な流行もあるけれど、自分らしさを大事にしないといけないというのは意識してきました。ラブソングを歌う時のコツ? 自分に酔いしれて歌って、あえて誇張すると鈴木雅之のようになるかもしれないですよ(笑い)」

★音楽好きな気持ちブレず

グループでは、R&Bなどブラックミュージックの文化を日本で確立し、ソロとしても甘い歌声で、40年間人々を魅了し続けてきた。

「とにかく『音楽が好き』という気持ちが、ブレなかったということだと思います。好きだからこうしていきたい…と思えることが大事なのかな。例えば、のどの調子とか、いつも及第点を出せるようなレベルに持っていこうとか、その努力みたいなことは『仕事』なのかもしれないけど、好きだから続けてこられた。あとは体力と笑顔だけでは太刀打ちできない、持って生まれた運みたいなものも時として味方にしないと、40年は到達できないかもしれないと感じます。主治医にも『鈴木さんの声帯はものすごいきれいですね! いい声帯をしてますよ』と言われたことがあって、そこは親に感謝です」

もう1つの秘訣(ひけつ)は、同僚や若いミュージシャンと刺激し合っていることだという。06年からは、ホスト役の1人として音楽フェス「SOUL POWER SUMMIT」を開催し、数多くのミュージシャンと絆を深めてきた。

「ゴスペラーズとか、CHEMISTRYとか、みんな一世代若かったりするけど、そんな彼らと延々と勝負できるって、これは楽しみなんです! そんな勝負ができることもそうそうないし、気持ちを確かめ合いながら勝負ができている。音楽ならではだし、そこに身を置けるのはものすごくありがたいこと。でもそれに見合う自分でいないといけないし、背中を見せなきゃいけないという気持ちはものすごくあるからこそ、日々挑戦できている自分も作れているんだと思います。年齢って、環境によってできあがっていくんだなと」

★還暦ソウル→古希ソウル

今後について聞くと、還暦を迎えた時の思いを振り返った。

「ちょうど還暦を迎えた時に、それまでの3年間をステップ1、2、3と名付けて『還暦ソウルを届ける』とファンに対してアプローチして、そのステップを楽しみました。自分の中では1つのゴールと捉えていたけれど、その約束を果たした瞬間に、これは新たなスタートだったんだなと思えた。そのステージの最後に、『これから1年1年やっていって、10年後に古希ソウルを届けるから、その時に元気で会おうな』って、ファンと約束したんです」

今年64歳になる。コロナの影響で、4月から予定していた全国ツアーは来春以降に延期となったが、まだまだ歌い続ける。

「自分の“古希ソウル”をどういう形で届けられるのかは、この1年1年にかかっているので、今までの1年間より、ものすごく重みのある1年になっていくと思っています。そんな時のコロナで、もっと自分の中でその1年の積み重ねを大事にしないといけないと感じました。時間の長さより質を大事にして、積み重ねていきたいですね」【大友陽平】

▼「DADDY!-」などを作詞作曲した、いきものがかり水野良樹(37)

後輩からすると安心して胸に飛び込んでいける大きさがあります。マーチンさんと会話したことがある人はみな好きになってしまい、慕ってしまう。この人の力になりたいと自然と思わせる不思議なオーラを持った方です。作品が完成してお食事に誘っていただいた時に、マーチンさんが運転される車の助手席に座らせていただいたことがあります。完成した音源をよく車で聞かれるそうで、アルバムを流しながらポイントを熱っぽく語ってくださって、普段はシャイでも、音楽のことになると話が止まらなくなる姿に、本当にこの方は音楽が好きなんだなと思わされる機会でした。自分のような後輩は遠い背中を追うばかりですが、常にカッコよく、セクシーで、優しいあの背中を見せ続けていただきたいなと思ってしまいます。

◆鈴木雅之(すずき・まさゆき)

1956年(昭31)9月22日、東京都生まれ。80年2月にシャネルズとして「ランナウェイ」でデビューし、ミリオンヒットを記録。83年からラッツ&スターに名を改め「め組のひと」などヒット曲多数。86年に「ガラス越しに消えた夏」でソロデビュー。「渋谷で5時」など数々のラブソングを歌う。16年に「第58回日本レコード大賞」最優秀歌唱賞受賞。ソロでNHK紅白歌合戦に2回出場。歌手鈴木聖美は実姉。愛称は「Martin(マーチン)」。血液型AB。

◆「ALL TIME ROCK’N’ROLL」

4月15日発売の40周年記念アルバム。デビューアルバム「Mr.ブラック」の“続編”として発案され、豪華アーティストらとのコラボでセルフカバー曲から新曲までを詰め込んだ3枚組。

(2020年7月19日本紙掲載)