10月23日、東京・竹芝に「四季劇場『秋』」をオープンさせた劇団四季吉田智誉樹社長が、開場式典で述べた言葉です。こけら落とし公演「オペラ座の怪人」への自信と、演劇人としての信念を語りました。

コロナ禍で、「映像配信」「ライブ配信」という新たな観劇スタイルを模索してきた演劇界。やれることは何でもやるという姿を頼もしく感じる一方で、どんなにテクノロジーが進化しても、目の前で人間の「創造力」と「想像力」がどこまでも広がる生の迫力は表現できないのだとも実感していたところ。クラウドファンディングなどの力を借りながら、生の舞台で踏ん張り続ける四季の決意と自意識をしみじみと聞きました。

特に「オペラ座の怪人」は、創造力と想像力のエネルギーを凝縮したような作品です。

冒頭のオークション会場の場面。目玉出品として「『オペラ座の怪人事件』のシャンデリア」が華々しくお披露目されると、400キロの巨大シャンデリアに灯がともり、あのパイプオルガンのかっこいい音楽とともにゆっくり浮かび上がります。亡霊のように客席上空までやってきて、ゆっくり舞台の天井へ。華やかな舞台美術がベールを脱ぎ、一瞬で19世紀のオペラ座にいるようなわくわく感に包まれます。

音楽の才能がありながら、容姿へのコンプレックスから仮面をつけてオペラ座の地下で暮らす怪人が、歌姫クリスティーヌに恋をし、破滅するまでの物語。劇場の悲喜こもごもを描いたストーリーは、新劇場の幕開けにふさわしいと感じます。美しい音楽や、シャンデリアが落ちるダイナミックな演出など、物語、音楽、俳優の波動が皮膚に張り付くような感動は、同じ空間を共有するライブならでは。事件の全貌と、切ないラブストーリーの余韻が胸にずしんと残り、竹芝から築地の本社まで、そのまま歩いて帰りました。

演劇がソーシャル・ディスタンスと相性が悪いのは事実だと思いますが、こんな時こそ人間の強さ、はかなさを共有できる空間として、値打ちのあるものだとあらためて実感。吉田氏は「演劇はしぶとい芸術だ」とし「『いずれ元に戻る』を信じて、新しい劇場で戦いを続けていきたい」と、力強く語っています。

ミュージカル「オペラ座の怪人」は、東京・竹芝のJR東日本四季劇場「秋」で上演中。【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)