日本選手団の先陣を切って登場した日本が、金メダルに向け、快勝発進した。先発した上野由岐子投手(38)が4回1/3を投げ、7奪三振、1失点の好投。緊張からか、立ち上がりは28球を要した。「興奮しすぎないように丁寧にいこうとして、厳しく投げすぎた」。きわどいコースがボールと判定されるなど、3四死球で1点を失った。「2回以降はデータだけにこだわらず、大胆にいったので立ち直れた」。その後は味方の3本の本塁打など大量援護もあって、テンポも良くなり、勝利につなげた。

前日まで明かされなかった先発投手。これから始まる日本選手の戦いを後押しするべく、マウンドに上がったのはやはり上野だった。前夜まで悩んだという宇津木監督は「上野しかいない」と初戦をエースに託した。上野は、金メダルを獲得した北京五輪から13年待った思いを乗せ、右腕を思い切り振り続けた。無観客の中、我妻のミットに110キロ台のスピードボールが投げ込まれ、大きな音を立てた。相手はソフトボールが五輪競技になった96年アトランタ大会から4大会連続でメダルを獲得している強豪オーストラリア。「楽しみでしかない」と言っていた熱い思いを福島のマウンドで爆発させた。

「このマウンドに立つためにここまで取り組んできた。やっとこの舞台に戻って来られたという思い」久しぶりの五輪のマウンドを振り返った。

本来なら恩返しをするはずだった。18年8月千葉で行われた世界選手権決勝。米国に延長逆転サヨナラ負けを喫し、敗戦投手となった。「スタンドからの上野コールでどれだけ成長できたか。その声援に応えられなかったので、今回恩返ししようと思っていた」。無観客となり、その夢はかなわなかったが「一選手としてやるべきことは変わらない。テレビや報道を通して自分のプレーを伝えたい」と切り替えて臨んだ。

前日の会見で宇津木監督は「上野については五輪はおそらく最後になると思う。彼女がやりやすい環境を作ってあげたい」と話していた。上野は「積み重ねてきたソフトボール人生をしっかりぶつけて戦いたい」。14年越しの連覇に向けて、集大成の東京五輪を最高の形でスタートさせた。

【松熊洋介】

 

◆五輪のソフトボール 女子のみが96年アトランタ大会から正式種目として採用され、08年北京大会まで実施された。ただ米国や日本など一部の国を除き世界的な普及度が高くないなどの理由により、12年ロンドン、16年リオデジャネイロ大会で正式種目から除外。東京大会では女子のソフトボールが男子の野球とともに「追加種目」として実施されるが、再び24年パリ大会以降は除外されている。