今後の五輪のジェンダー平等に対し、一石を投じることになるかもしれないボクサーが五輪の戦いを終えた。

25日に初戦を迎えた女子フライ級でリオデジャネイロ五輪5位のマンディ・ブジョルド(34=カナダ)は、セルビア選手に判定で敗れると、1つのことを誇った。「1人の人間にIOC(国際オリンピック委員会)を動かすのは無理だと言われましたが、それは正しくなかったと思います。私はやってのけましたし、これから女性が前に進むのをイージーにできたかなと思います」。五輪開催前、IOCとの「試合」に勝利して、東京行きをつかんでいた。

資格停止中の国際ボクシング協会(AIBA)に変わり、東京大会の予選運営を担ったIOCのボクシングタスクフォース(BTF)は、新型コロナウイルスの影響で当初の予定を大きく変更した。出場予定だった米大陸予選は中止になり、さらに世界最終予選も消滅。苦肉の策で18年から19年の主要国際大会の成績で独自のランキングが製作され、出場枠をあてはめることになった。

結果、ブジョルドは戦わずして道を絶たれた。当該の2年間、妊娠と出産を経験し、競技は休養期間に入っていた。娘を育てながら、大陸予選を目指していた最中、突然望みが無くなった。

ただ、諦めなかった。声を上げた。女性の当たり前の選択が、スポーツの女性進出を妨げて良いのか。SNSで始まった訴えは、競技、国の枠を超えて広がった。男女の機会平等の動きが広がる中で、その動向に注目が集まった。

スポーツ仲裁裁判所(CAS)に異議申し立てし、望みを託した。判決が出たのは開幕の2週間前。訴えは認められ、IOCは対応を迫られることになった。

BTFの座長を務めるIOC委員の渡辺守成氏は「CASで認められたわけですので、IOCとしては1枠を認めることになりました」と説明する。すでに出場者は確定していたが、特別に1枠を増やすことで、ブジョルドの日本行きを認めた。「誰かの枠を減らすわけにはいかなかった」。CASの決定が出てから、即時の動きだった。

国際体操連盟(FIG)の会長も務める同氏は、「このケースが、今後の他競技も含めたIOCの指針に関係する可能性はある」と見通す。今回はコロナ禍による中止で起きたケースだが、競技の中には数年間をかけて五輪出場をかけた選考レースを行う場合がある。「それは出産などの女性の選択を妨げていることもあるかもしれない」とする。

ブジョルドは25日の試合後、「競技人生はこれで最後。五輪も2大会出られましたし。これからは娘、家族との時間を大切にします」と区切りを付けた。そして、「このケースが次世代にとって大きな意味のあるものになってほしい」と願った。【阿部健吾】