東京五輪サッカー日本代表が3位決定戦でメキシコに敗れた6日夜、日本一の繁華街・新宿で休業中の飲食店の店主に話を聞いた。

“恋の伝道師”との異名をとる、まぁがりんさん(50)の経営する「あっぱれ!」は座席8席の小規模店舗。スポーツ選手の間では「客で来ると活躍できる」とのうわさもあって、コロナ禍以降はメールやSNSで連絡を取り合うだけではあるが、常連13人が東京五輪に選手として出場し、うち4人が金、1人が銅とメダリスト5人を輩出した。

「ね、ワタシ、あげまんでしょ? (新宿)2丁目で27年やっているわ」とまぁがりんさんは笑うが、昨年6月にコロナ禍での営業に限界を感じて店を閉めた。実家の神奈川県に戻って派遣社員などをしながら「1人で暮らしていくなら仕事はいくらでもある。もう、2度と水商売に戻ることはないわね」と覚悟した矢先、新型コロナウイルスのワクチン投与が開始されることをきっかけに再起を決意した。

店の常連からクラウドファンディングで資金を募る方法を伝授され目標額200万円のところ、250万円以上が集まり、今年4月から場所を変えて新宿に戻ってきた。時短営業だったものの「本当にみんな顔を出してくれてありがたかったわ。ウチはワタシ1人だから店を臨時休業して百合子(小池都知事)から協力金をいただければなんとかできるの」と現状を語る。

約10カ月店を閉じていた期間はあるが、この2年間で収入は半分以下に落ち込んだ。「ワタシのところはいいの、個人店だから。常連に連絡をとれる。7月までにワクチン接種も2回終わっているし、1度閉店も経験したから、もう怖いもんはない。でも、チェーンの大手飲食店は従業員さんも抱えているし、お客も来るかどうかもわからないし。コロナ禍では大変ね」と話す。

この日は自作の巨大なソフトアクリルの仕切り板を配置した店内での取材だった。サッカー日本代表が敗れると「あらー、メキシコの選手はみんなカワイイじゃない。ダメよ、気持ちはわかるけど久保ちゃん、泣かずに立つのよ、立って」と涙声で画面に言葉を投げかけ、チャンネルを替えた。女子バスケットボールの日本代表が準決勝でフランス相手に躍動していた。「お客は来なくても空気を入れないと店は死んでしまうの。五輪をみるために毎日来てるわ。コロナ禍が明けたら、女子バスケの選手が来てくれないかしら。3年後のパリ五輪でも活躍してくれないとね」とまぁがりんさんは再びテレビ画面に熱視線を送りながら「やったー、3ポイント入ったぁ~」と叫んで拳を突き上げた。【寺沢卓】