村上茉愛は、思い切りのいい演技だった。バイルス不在で、出場8選手全員にチャンスがあった。

僅差のメダル争いが予想される中、完璧な着地で高得点をマークした。スピード感があり、動きにハリもあった。前回16年リオデジャネイロ大会の悔しさもあったはず。メダルを目指して臨んだ今大会も、ここまで満足のいく結果ではなかった。後がなくなったことで、開き直れた。入場時から、これまでと違ういい表情だった。

村上のメダルは、日本女子の今後にとって大きい。世界レベルの男子に比べ、これまで女子は勝てなかった。できないはずはないのに、申し訳ないが意識が低いなと思っていた。口では「金メダルを狙う」などと言うが、内心では無理だろうと。女子選手の多くが、五輪出場を目標にしているように見えたからだ。

ただ、村上は違った。世界選手権でメダルを獲得するなど、世界を意識していた。だから、メダルに手が届いた。このメダルで日本の女子選手も「私もできるかも」「メダルがほしい」と思うはず。萱はあん馬のメダルで「パリ五輪へのスタート」と言ったが、村上の銅メダルも、日本女子のパリ五輪に向けてのスタートとなる。(04年アテネ五輪団体金メダリスト)