男子66キロ級の阿部一二三(23=パーク24)と妹で女子52キロ級の詩(21=日体大)が、同日に金メダルの快挙を成し遂げた。

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阿部の成長の要因には、1人の同級生の存在があった。夙川学院で3年間過ごした、東京五輪女子57キロ級韓国代表の金知秀(キム・チス)だ。両親が韓国人で兵庫・姫路市出身の20歳は、夏冬全競技を通じて初となる在日コリアンの五輪金メダルを目指している。

周囲を照らす笑顔の内に強烈な負けん気を宿す。持ち味は「根性」と言い切るほどの勝負師。父の金徳諸(キム・ドクジェ)さん(70)が打ち込んでいた柔道をいじめや差別から身を守るために6歳で始めた。「『自分の身は自分で守る』という考えで、軽い気持ちで始めたわけではない」と述懐する。小2の誕生日プレゼントに自宅に柔道場を作ってもらい「負けたら死ぬ」ぐらいの強い覚悟で競技に取り組んできた。

小学校時代に兵庫県大会などで“秒殺”された阿部は「柔道も気持ちも全部が強かった。1分以内に負けていたと思う」と懐かしむ。2人は運命のように高校で再会して仲間となった。金は高1で全国高校総体48キロ級を制覇したが、順風満帆ではなかった。高1の冬に減量苦から体調を崩して1カ月の不登校生活を送った。「道場の畳を見るだけで涙が出た…。サウナスーツも着たくない」。その期間は大阪や京都を放浪し、地元のファミリーレストラン「サイゼリヤ」で泣きながらドカ食い。1回で4000円前後を使ってサラダ、ピザ、ステーキ、デザートなどを爆食した。体重は1週間で8キロ増の63キロになった。この出来事を機に57キロ級に階級変更。高2のGS東京大会で3位に入り、「東京五輪」を狙うという目標を定めた。

高校時代は「五輪」について口にしなかった2人が、両国の五輪代表として日本武道館で再び“再会”を果たした。詩の活躍に刺激を受けた金は26日に初の大舞台に立つ。【峯岸佑樹】