バスケットボールの八村塁(23=ウィザーズ)が、日本選手団の男子旗手を務めた。女子旗手でレスリング須崎優衣(22)と交代で日の丸を掲げて、日本選手団を先導した。203センチの体で旗をゆっくり左右に振って、堂々と歩いた。ベナン人の父と日本人の母を持ち、米NBAで戦う八村は、大会コンセプトの「多様性と調和」を体現する存在。日本スポーツ界の今を、世界に向けて発信した。

八村は、日の丸を掲げる須崎に寄り添うように歩いた。午後10時32分、各国入場の最後に「ニホン」がコールされ、右手を振った。行進の真ん中で須崎と旗を掲げる役を交代。須崎より50センチも高い203センチの体で日の丸をゆっくり左右にゆらした。「夢に見ていた舞台」で、日本を先導した。

「多様性と調和」を象徴する存在。19年5月、日本初のNBAドラフト1巡目指名。勝負服はワインレッドのジャケット。その裏地は右側が日本の浮世絵、左側にベナンの伝統的な柄だった。常に2つの国への思いを胸にして、戦っている。

富山で育った。小学時代には野球や陸上で天性の運動神経を発揮した。だが活躍することで周囲から向けられる好奇交じりの視線は、本人にとって快いものではなかった。体育の授業では、あえて手を抜いたことも珍しくなかったという。

そんな少年の内面は、富山・奥田中に進学してバスケットボールと出会い、変化した。指導する坂本穣治コーチ(61)から毎日のようにこう言われた。「塁、お前が一生懸命やれば、周りが元気になるんだよと。だから一生懸命やることを楽しもう」。そんな言葉に、内気な少年はみるみると駆け上がって、ついに米NBAまでたどりついた。

ついに始まった東京オリンピック(五輪)。強化試合ではベルギー、フランスと格上の強豪を連破。かつてない期待の高まり。その中心にいるのが、八村だ。「日本中が誇り高く思えるようなプレーをしたい」。旗手の大役を終えて、次はいよいよ初めての五輪で、大暴れする。【益田一弘、奥岡幹浩】