雨が降り注ぎ、観客もいない国立競技場がハッピーな雰囲気に包まれた一幕があった。それは女子200メートル予選(視覚障害T11)の4組が終わった後のこと。

大西洋に浮かぶアフリカの人口約55万人の島国カーボベルデのケウラニドレイア・ペレイラセメド(32)は33秒04の4着でフィニッシュした。

その後、なぜか一緒に走ったライバルが周囲に集まってきた。ただ、伴走者のヴァスダベイガ・マニュエルアントニオだけは自分の元を離れていった。立ち尽くすペレイラセメド。その後、マニュエルアントニオは戻ってきた。普段と違うのは、手には小さな白い箱を持っていたこと。右膝をトラックに付いたマニュエルアントニオから、ペレイラセメドは左手を握られた。その薬指に指輪をはめられた。紛れもないプロポーズだった。断るわけはない。ペレイラセメドはアイマスクをしてても分かるほど、泣きながら笑った。そのまま2人は抱き合った。会場は拍手と歓声に包まれた。

「11年間、一緒に関係を築いてきた」という2人。選手と伴走者という関係を超え、ゴール後はフィアンセに変わっていた。予選落ちなんてどうでもよかった。この上ない幸せをつかんでいた。

マニュエルアントニオはパラリンピックの出場が決まった7月末に「最高の機会であり、最高の場所」とプロポーズを決心したという。サプライズを受け入れたペレイラセメドは「本当に言葉が出てこない。いろんな感情が湧き出てくるの。これを言葉にするなんてできない。いつも結婚するという夢を持っていましたが、何も計画しなかったから」と喜んだ。