日本がメダルに王手をかけた。男子の準々決勝で、1次リーグA組を3連勝の首位で通過した日本は0-0からのPK戦の末、4-2でB組2位のニュージーランドを下し、2012年ロンドン五輪以来の4強入り。これで1968年メキシコ五輪以来、53年ぶり悲願のメダル獲得へ、8月3日の準決勝は優勝候補のスペインと対戦する(埼玉スタジアム、午後8時開始)。

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PK戦最後のキッカーで試合を締めたDF吉田主将の声はかすれていた。「いやあー、よく我慢した。いやあー、よく耐えた」。喜び、そして安堵(あんど)、多くの感情があふれ出た。120分の戦いを終え、0-0。格下とみられた相手との準々決勝。攻めあぐね、チャンスを決めきれず、ピンチもあった。「どっちが(準決勝に)上がってもおかしくなかった」と3度目五輪の吉田。勝ち上がり、メダルへの夢をつないだのは日本。薄氷の4強入りだが、負ければ終わりの戦いでPK戦を制し、勢いを得た。

しびれるPK戦。事前にキッカーは決まっておらず、森保監督からの指示で、立候補者が務めた。切り込み役はこのチームの最多得点者、途中出場のFW上田。「この状況を作ったのは自分」。決定機を止められ、ストライカーとして自分が許せなかった。「外したまま終わるのが嫌だった」と力強く右へ蹴り込んだ。

板倉、中山の両DFも決めてバトンをつなぐ。GK谷のスーパーセーブもあり、決めれば終わりの状況で、吉田へ。「公式戦では蹴ったことない」という主将が決めて右手でガッツポーズ。なだれ込んできたかわいい後輩たちとの歓喜の輪ができた。

準々決勝でのPK戦といえば、日本には苦い思い出がある。00年シドニー五輪で日本は米国に屈した。エース中田英寿が外し、涙をのんだ。約20年の時を経て迎え、今度は打ち破った。森保監督はPK順を選手に委ねたことを、「“思い”もあると思ったので、立候補してくれる選手を大切にした」。信じて任せ、そして、その信頼に選手がこたえた。即座に5人以上、手が挙がったという。選手はたくましく育っていた。

準決勝でぶつかるスペインもほぼ同時刻に、コートジボワールと延長まで120分戦った。大会直前には強化試合で対戦しており、1-1の引き分け。さあ、メダルをかけたガチンコ勝負だ。連続ゴールが3試合で途絶えたMF久保は「俺がチームを勝たせるという気持ち。今までこういうことを言ったことはないけど、ちょっとビッグマウスになろうかなと思う」と語気を強めた。10番のMF堂安も「決めきる選手にならないといけない。次は決めます」。喜びの中、チームの顔、ダブルエースはチームを決勝、そして頂点へと導く得点に燃える。53年ぶりのメダル、さらに伝説のメキシコの銅を超える輝きのメダルに向け、森保ジャパンの挑戦は残り2試合まできた。【岡崎悠利】

◆68年メキシコ五輪の日本 長沼健監督が率いたチームは1次リーグ初戦のナイジェリア戦でFW釜本邦茂がハットトリックを達成。3-1と快勝し、勢いに乗った。3戦目のスペイン戦は0-0で引き分けたが、1次リーグ2位通過。準々決勝もフランスを3-1で下して4強入りした。だが、最終的に金メダルを獲得したハンガリーに準決勝で0-5と大敗し、3位決定戦へ。そこで開催国メキシコを2-0で下して銅メダルを獲得した。釜本が通算7点で得点王に輝いた。