東京五輪で初採用されたスポーツクライミング女子決勝は、日本勢がメダル2個を獲得した。野中生萌(みほう、24=XFLAG)が銀メダル、19年世界選手権銀メダルで今大会で現役引退する野口啓代(32=TEAM au)は銅メダルで有終の美を飾った。6日の男子決勝では楢崎智亜が4位に終わり、競技初メダルとなった。

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最後の闘いは銅メダルだった。野口は勝負を終えると出場者全員と抱き合い、21年間の競技生活に幕を下ろした。「五輪ではどうしてもメダルが欲しかった。金メダルには届かなかったけど特別なメダル。生萌と一緒に表彰台に登れて良かった」と、日の丸カラーのリボンを揺らして涙した。

夢が背中を押した5年間だった。最初で最後の五輪-。15年8月に左足靱帯(じんたい)損傷の大けがで「壁が怖くなった」時期もあり一時は引退も考えた。16年にスポーツクライミングが五輪の新競技に加わり「金メダル」が夢となった。「ゴールは東京五輪しかない。最後が決まれば競技にも集中できる。自分らしい登りで終えたい」。苦難を乗り越える原動力にもなり、夢に向かって目の前の壁を登り続けた。

想定外の五輪延期にも、軸はぶらさずに信念を貫き「強くなるための1年間のギフトを与えてもらった」と前向きに受け止めた。

昨年から「チーム啓代」を結成。コーチ、トレーナーらを含めた7人でチーム会議を月1回実施した。全ては集大成の21年8月6日へ向けて-。「最後はいい終わり方をしよう」。全員の合言葉のように、結果はついてくると信じて勝敗よりも思いを1つにした。

この1年間は心技体を磨き、やるだけのことはやった。結果は銅メダル。「もっと良いクライミングを見せたかったけど、それ以上にうれしい気持ちが大きい」。完全燃焼した32歳の偉大なクライマーは、喜びとともに競技を終えた。【峯岸佑樹】