五輪初出場の大橋悠依(25=イトマン東進)が、女子400メートル個人メドレーで金メダルを獲得した。

予選3位通過で迎えた午前決勝で、自身の日本記録に1秒26差に迫る4分32秒08で逃げ切った。同種目の金メダルは、00年シドニー大会の田島寧子の銀を上回り日本人初。昨年12月には行き場をなくして引退さえ頭をよぎった危機から、劇的に復活した。競泳陣では今大会メダル第1号となった。

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大橋の戦略勝ちだった。持ちタイムから金メダルは簡単ではないと思っていたが、前日の予選などの状況を見て、目標タイムを設定したのだと思う。普通に予想すれば、優勝タイムは4分30秒くらいか。だとしたら、前半の入りは遅すぎる。あえて抑えて入って後半勝負にしたのは、優勝ラインが32秒前後になると予想した大胆な戦略だった。

前日の予選では、金メダル候補の瀬戸が敗退。この日の男子400メートル個人メドレーの優勝タイムも遅かった。新型コロナの影響もあって、多くの国際大会が中止になった。競り合った実戦の経験が不足すると、ペース配分も難しくなる。

さらに、午前決勝の難しさもある。慣れない午前中は体が動きにくいもの。同じ午前決勝だった08年北京大会は好タイムが出たが、これは高速水着の影響だとも考えられる。それらを冷静に分析して戦略を立てた選手が勝つ。当然、大橋選手のようにプランを実行できる泳力は必要だが。

この1年で急成長した選手もいる。情報が少ないから、波乱と言われるレースも増えそうだ。特殊な状況でいかに戦略を立て、実行するか。「タイムよりも勝負」。それが、東京大会のカギになる。(84、88年五輪代表)