大橋悠依(イトマン東進)が夏季五輪の日本女子で初めて、1大会で2つの金メダルを獲得した。最初の金メダルを獲得した400メートル個人メドレーから5日連続のレースとなった200メートル個人メドレー決勝の大接戦を、2分8秒52で制した。自分に自信が持てなかった25歳が涙の金メダルから3日後に、2個目の金を笑顔でつかんだ。

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競泳日本の監督も務める平井伯昌コーチ(58)が、指導者として3度目の2冠を演出した。北島康介の2大会連続2冠に続く、大橋の2冠。1つ金メダルを取ると喜びから、選手もコーチも集中力が切れやすい。北島の時は2冠という目標を定めて大会に臨んだ。しかし大橋は7月頭に400メートル回避の選択肢もあったほどで、予定が立つはずもない。平井コーチは報道陣に「期待してなかったでしょ? まさかここまで」と言った上で「北島の時とは違う。レース1本1本で雪だるま式によくなった。思う通りにいくから自信がついた」。結果的に2冠になったとした。

ただその裏に名コーチならではの戦略があった。慎重な大橋は、決勝前夜にライバルの情報を国際水連の公式サイトで調べてきたという。「英国選手が気になる」という大橋に、標的を米国選手2人に絞るように忠告。「金メダルを狙うのにたくさんを相手にすると疲れちゃう」。その2人が銀と銅で大橋が優勝した。

女子選手との接し方は「とにかく話しかけること」だという。大橋とは意見の衝突もあった。「指導者になった初期に大橋がきたら指導できていないかな。紆余(うよ)曲折ありましたが、きれいにまとまった」。マラソンの名指導者・故小出義雄氏の「年をとるといいコーチングができるよ」という言葉を人づてに聞いて心に留めている。大橋について「カリカリくるが、ちょっと我慢できた。コーチとして大きな経験をさせてもらった」と笑っていた。【益田一弘】

◆平井伯昌(ひらい・のりまさ)1963年(昭38)5月31日、東京・駒込生まれ。早稲田中・高から早大へ。在学中に選手からマネジャーに転向。卒業後に東京スイミングセンター入社。96年から平泳ぎの北島康介を指導し、04年アテネ、08年北京で五輪2大会連続2冠に導く。16年リオデジャネイロ五輪では男子400メートル個人メドレーで萩野公介を金メダルに。他にも中村礼子、寺川綾、星奈津美ら多くのメダリストを輩出。13年4月から東洋大監督。