レスリング女子57キロ級で川井梨紗子(26=ジャパンビバレッジ)が、2連覇を成し遂げた。決勝でクラチキナ(ベラルーシ)を5-0で下した。4連覇の伊調馨(37)との代表争いを制し、つかんだ2度目の夢舞台。心身の成長を刻み、前日4日の62キロ級の妹友香子(23)とともに、日本勢として同一大会で初の姉妹で金メダリストとなった。女子の2連覇は、4連覇の伊調、3連覇の吉田沙保里に続く3人目。今大会、日本のメダルは金、銀、銅合わせて46個で、前回大会の41個を超えて史上最多となった。

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戦いを終えた川井は、マットの中央に向けて、深々とお辞儀をした。2連覇を遂げても、涙はない。スタンドで目を赤くする妹を見ても、引き締まった表情が印象的だった。「友香子に昨日あんな試合を見せられたらもう、やるしかない」。その誓いを結実させた。

リオでは、階級を上げたばかり。マークもされず、ひたすらタックルだけ。この日、開始からガツンと組んできた相手を受け止めた。巧みに重心をずらし、いなすこと2回。そこだけで進化があった。飛び込まれても耐える、がぶって後ろに回る。「本当はもっと出したかった。6分間じゃ足りない」と悔しがる姿が、強さを際立たせた。

あの日々があったから、強くなれた。18年末の全日本選手権から19年の6月の全日本選抜まで。伊調と、代表の座を激しく争った。小学生の時、アテネ五輪で金メダリストになる前に一緒に記念写真を撮った。憧れが「敵」になった。

全日本の決勝で敗れると、観客席にいた母に「辞めたい」とすがった。注目度、意図せぬ対立構造は心を乱した。妹の黙々とした練習姿などを見て、前を向き、全日本選抜では雪辱。五輪につながる世界選手権代表の座を手にした。

もう1つ、手に入れた確信があった。「練習でやったことが出る」。伊調から得点を奪ったのは、「試合では使わないと思っていた技」。日ごろ染み込ませた動きこそが全て。「考えるより体が動く感覚」は、あの勝負こそ。だから、一層ひたすらに練習に取り組んできた。タックルだけではない技を求めて。

以前は謙遜があった。「私は勝った上で内容がつけば満足ですけど、馨さんは五輪で勝っても自己評価が厳しかったり」。今は違う。男子の映像を見るなど、「奥深さを感じる。見たことない技なども多い」。勝敗を超えた「極めたい」という感情、それは男子と稽古していた伊調と重なる。金を取っても悔しがる。いつしか、憧れた人の領域に足を踏み入れていた。

89年世界選手権代表の母初江さんのもと、姉妹で人生をささげてきた。前日には妹の胸にメダルが輝いた。「こんな幸せな日があっていいのかな。夢みたい」と浸り、「終わってどんな気持ちになるかで決めよう」と考えてきた未来にも答えが出た。

「レスリング、最高! やめられない」。奥深さも、家族の幸福も届けてくれた。試合後のお辞儀は、その感謝の証しに映った。【阿部健吾】