東京オリンピック(五輪)が史上初の無観客という形で終わった2021年。スポーツ界ではチケット販売数に制限がかけられるなど厳しい状況が続いております。2022年はカタールワールドカップ(W杯)が開催される年でもあり、新型コロナウイルスの終息を願うばかりです。

そのW杯が歴史上初の中東地域での開催です。今回は開催国のカタールの状況をのぞいてみたいと思います。五輪同様に問題視されるのはコスト面ですが、2014年のブラジル大会ではスタジアムの新設・改築で35億ドル(約3850億円)とも言われています。これでも下方修正された数字のようですが、2010年南アフリカ大会で施設整備にかけた費用の3倍以上になってしまったと報道されました。最終的に145億ドル(1兆6000億円)に達したとも言われ、その金額は天文学的な域に達した感があります。

2018年ロシア大会での設備投資費用は100億ドル(約1兆1000億円)を超えたとされており、それでもなんとかブラジル大会時よりも50億ドル近くは少なく収めたといいます。そんな巨大コンテンツは、カタール大会では80億~100億ドル(約8800億~1兆1000億円)のコストがかかるとレポートされており、当初の設定額から40~50%ほど削減したとされていますが、いずれにしろ巨額な設備投資がかかっていることには変わりません。

そのカタールは日本人の私達世代にとって見れば「悲劇」の場所ドーハのイメージが強い場所ですが、人口数は大阪市とほぼ同じ規模の約270万人。カタールW杯は8つのスタジアムで開催予定。その8つのうちの7スタジアムを新たにゼロから建設するという計画で、そのスタジアム建設に関わる労働者のうち9割近くを外国人労働者が占めるとされています。夏季の高気温を考慮して大会の開催は11月となりましたが、すべてのスタジアムには空調設備が完備されるなど対策がなされており、今までにないスタジアムでの開催となりそうです。このご時世に巨額の投資が可能なのは、カタールが世界最大級の液化天然ガスの輸出国だからです。日本の天然ガスの3割近くはカタールからの輸入です。そういった関係からか、カタール市内の地下鉄の建設は日本企業が中心の企業連合が受注しており、車両はすべて日本製。カタールが国の威信をかけるW杯は、ある種日本にとっても大きなビジネスチャンスとなっていると言ってもいいのかもしれません。

しかし現在、サウジアラビアを中心とした周辺国はカタールとの国交を遮断。中東には、歴史的にサウジアラビアを中心としたスンニ派の国々と、イランを中心としたシーア派の影響力の強い国々という対立軸が存在しています。カタールは、沖合の天然ガス田の開発でイランと協調する必要があり、良好な関係を築いてきました。しかしながら宗派が異なるイランを敵視し、包囲網を形成したいサウジアラビアにとっては、カタールのこうした態度が看過できなかったとの見方もあると言われます。他方では、カタールにはアメリカの空軍基地があり、アフガニスタンの安定維持や、過激派組織への対中東軍事作戦の拠点になってきたという歴史があります。サウジアラビアなどの国々の軍事的対応ができていない理由は、アメリカ軍の存在があるからとも言われていますが、そのアメリカはアフガニスタン撤退など、まだまだ先が見えない状況でもあります。

このように、中東・カタールは歴史的に政治的な背景の強い地域であり、今回のW杯はそういった場所での世界的な祭典ということになります。スポーツと政治を切り離し、サッカーで盛り上がることができるのか注目の大会となります。

【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)